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【山中漆器】日本古来の漆工芸を革新し続ける(石川県加賀市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2024年10月号より)

 山あいの静かな街・山中温泉には、古くからその名を知られたものがいくつもある。ひとつはもちろん「温泉」。また日本三大民謡のひとつとされる「山中節」。

 そして安土桃山時代、良質で豊かな木材をかすことから始まった「山中漆器」。なんと生産額は漆器産業の中で全国一!*

*伝統的な漆器と、プラスチック素材等を取り入れた近代漆器との合計額

浅田漆器工芸が手がける「うつろい」シリーズのウッドプレートとカップ。使いやすさも細部まで計算されている

「山中漆器はとても自由。チャレンジできる余地があるからこそ、今日まで発展してきました」

 と語る浅田漆器工芸専務、浅田明彦はるひこさんが手がける漆器も挑戦的だ。メタリックカラーの「うつろい」シリーズ、伝統の技法を現代的によみがえらせた「むらくも」シリーズなどで、新しいファンを増やしている。

浅田漆器工芸 「むらくも」シリーズのカップ

 挑戦を可能にしているのが、歴史に培われた高度な技術だ。特に漆を塗る前の素地となる、木材をろくろで挽いてつくる「木地きじ」。ここにさまざまな模様を施す「加飾挽かしょくびき」など、山中でしかできないとされる技法も多い。

浅田漆器工芸 塗師の清水一人〈かずと〉さんは伝統の技法を研究するうち、和ろうそくの煤を利用する「叢雲〈むらくも〉塗」を再発見。現代的な製品に仕上げた
浅田漆器工芸 砂糖入れの「りんごっこ」、竹の子となすの「茶入れ」

 けれども現代に暮らす私たちにとっていまや、漆器はあまり身近なものではない。そこで2022(令和4)年11月、守田漆器がオープンしたのが「工房静寛じょうかん」。工房にギャラリー、カフェを併設した、漆器を「五感で体験するライフスタイルストア」である。

工房静寛 カフェでは実際に漆器を使って、こだわりのドリンクやスイーツを出している

 工房では木地挽きから下地、塗り、蒔絵まで、漆器の工程をひと通り見学できる。また、ギャラリーに並ぶ自社製品は、伝統的な食器・茶道具にとどまらない。あかりが透けるほど薄い木地の照明器具「ウスビキライト」、アクセサリーの「KOTO」シリーズなど、暮らしに広く生かせる新しい漆器を提案している。

工房静寛 照明器具「ウスビキライト」。木肌の温もりを感じる灯り

「伝統と近代性を上手に融合してきたのが山中漆器です。技術の革新はこれからも続くでしょう」

 守田漆器社長・守田貴仁たかひとさんの表情は自信に満ちている。
 伝統を守りつつなお、変化を恐れず進む山中漆器の未来に注目したい。

工房静寛 (上)次世代の職人の育成にも力を入れている。職人は独立して工房を構えることが多いが、ここでは社員として雇用。安定した環境で腕を磨く(下・左)繊細な口あたりの「桜 京椀」(下・右)漆器初心者向けの「ういの器」も好評

文=瀬戸内みなみ
写真=佐々木実佳

ご当地INFORMATION
加賀市のプロフィール
石川県の南西部、福井県と接する加賀市。産業は機械製造業のほか、「加賀温泉郷」と呼ばれる山中・山代・片山津の3つの温泉地を有するなど観光業も盛ん。九谷焼の発祥とされる地が市内にあり、ものづくりの精神が現代まで脈々と受け継がれている。

●問い合わせ先
うるしの器あさだ ☎0761-78-4200
https://asada-shikki.com/
工房静寛 ☎0761-78-0589
https://shikkitogreen.co.jp/

出典:ひととき2024年10月号

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