【山中漆器】日本古来の漆工芸を革新し続ける(石川県加賀市)
山あいの静かな街・山中温泉には、古くからその名を知られたものがいくつもある。ひとつはもちろん「温泉」。また日本三大民謡のひとつとされる「山中節」。
そして安土桃山時代、良質で豊かな木材を活かすことから始まった「山中漆器」。なんと生産額は漆器産業の中で全国一!*
「山中漆器はとても自由。チャレンジできる余地があるからこそ、今日まで発展してきました」
と語る浅田漆器工芸専務、浅田明彦さんが手がける漆器も挑戦的だ。メタリックカラーの「うつろい」シリーズ、伝統の技法を現代的に蘇らせた「むらくも」シリーズなどで、新しいファンを増やしている。
挑戦を可能にしているのが、歴史に培われた高度な技術だ。特に漆を塗る前の素地となる、木材をろくろで挽いてつくる「木地」。ここにさまざまな模様を施す「加飾挽き」など、山中でしかできないとされる技法も多い。
けれども現代に暮らす私たちにとっていまや、漆器はあまり身近なものではない。そこで2022(令和4)年11月、守田漆器がオープンしたのが「工房静寛」。工房にギャラリー、カフェを併設した、漆器を「五感で体験するライフスタイルストア」である。
工房では木地挽きから下地、塗り、蒔絵まで、漆器の工程をひと通り見学できる。また、ギャラリーに並ぶ自社製品は、伝統的な食器・茶道具にとどまらない。灯りが透けるほど薄い木地の照明器具「ウスビキライト」、アクセサリーの「KOTO」シリーズなど、暮らしに広く生かせる新しい漆器を提案している。
「伝統と近代性を上手に融合してきたのが山中漆器です。技術の革新はこれからも続くでしょう」
守田漆器社長・守田貴仁さんの表情は自信に満ちている。
伝統を守りつつなお、変化を恐れず進む山中漆器の未来に注目したい。
文=瀬戸内みなみ
写真=佐々木実佳
出典:ひととき2024年10月号
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