繰り返される「体にいい・悪い」論争(前篇)|『熱狂と欲望のヘルシーフード』より
2021年から、「オートミール」の静かなブームが続いている。オーツ麦(日本語名は燕麦)を加工したシリアルの一種で、水分でふやかすだけで加熱がいらないタイプと、加熱が必要なタイプがある。白米と比較すると、食物繊維は約倍、たんぱく質は約2倍、鉄は約5倍、カルシウムは約9倍も含まれ、ビタミンB群も豊富だ。白いご飯からオートミールに切り替えると、1食分で糖質は3分の1、カロリーは約半分に抑えられることから、コロナ太り解消に最適な「新しい主食」として注目された。その年を象徴する食品や料理を選ぶクックパッド「食トレンド大賞2021」では「オートミールごはん」が大賞を獲得。2021年度の市場規模は前年度比で850%に急増した。
白いご飯は糖質のかたまりなので体に悪いとみなされて、糖質オフの観点から最近とみに敬遠する人が増えている。とはいえパンやパスタ、うどんに替えたところで糖質量は似たり寄ったり。そこで浮上したのが、同じ穀物食品でも糖質が減らせるオートミールというわけだ。ほかにも、腸内環境を整える効果、血中コレステロールを下げる効果もうたわれている。
オートミールは英米では牛乳で粥状に煮て朝食に食べることが多く、ドロドロとしておいしくないイメージがあったが、水分を少なめにすると、ご飯に近い食感になる。この特徴を生かして「オートミール米化」をキャッチフレーズに、チーズやトマト味のリゾット、しょうゆやみそ味の雑炊といった、ご飯が大好きな人でも無理なく取り入れやすい代替米レシピがたくさん開発されている。オートミールでおにぎりも問題なく作れるのには、ちょっと驚いてしまった。
初の国産オートミールは1929年(昭和4)に札幌で製造され、「滋養食品」に位置づけられて糖尿病患者の食事療法にも用いられたが、こんなに注目されたのははじめてだ。
コロナ禍の最中に、「大豆ミート」も広く周知された。大豆たんぱくが主原料の代替肉で、市販の惣菜や外食にも取り入れられている。ミンチやスライスなど、使いやすいサイズに加工された料理の材料用の大豆ミートも、手軽にスーパーなどで買えるようになった。最近では、米粒型に加工したご飯のかわりになる大豆ライスも登場し、おかずも主食も大豆でそろえることができる。
大量の穀物飼料と水、土地を必要とし、温室効果ガスの排出量が多い畜産は環境負荷が大きく、持続可能ではないことも、よく知られるようになった。ただ、海外では環境問題解決のため代替肉に切り替える人が多いのに対し、日本では大豆ミートが低脂肪で低カロリー、食物繊維が豊富でコレステロールゼロのヘルシーフードであることに着目し、取り入れる人が多いようだ。地球の健康より自分の健康が重視されてブームになる、というのも複雑な気持ちにさせられるが、結果として食べ物の選択肢が広がるのはよいことだ。
牛乳の代替になる「植物性ミルク」人気も急上昇している。古くから牛乳に対して「第2のミルク」に位置づけられていた豆乳以外に、アーモンドミルク、オーツミルク、ライスミルク、ヘーゼルナッツミルクなどがあり、コンビニでも買えるようになった。すべて100%植物性原料から作られ、見た目は牛乳そっくりだが、牛乳よりも低脂肪・低カロリーなのが売りである。たとえばアーモンドミルクだったらビタミンEが豊富というように、美容効果の高い栄養成分を含むことから、とくに女性に愛飲者を増やしている。
さて、オートミール、大豆ミート、植物性ミルクのブームから見えてくるのは、これらが代替することになった米、肉、牛乳が、なんとなく体に悪そうなイメージを持たれているという事実。実はこの3つには、何度も「体にいい・悪い」論争の的になった過去と歴史がある。
>>>後篇につづく
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