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姉妹鉄道は続くよどこまでも(阿里山森林鉄道十字路駅)|岩澤侑生子の行き当たりばったり台湾旅(7)

この連載は、昨年まで現地の大学院に留学されていた俳優の岩澤侑生子ゆきこさんが、帰国前に台湾をぐるりと一周した旅の記録(2022年8月1日~9日)です。
今回は、日本とも繋がりの深い阿里山を鉄道に乗って巡ります。行き当たりばったりの台湾旅をぜひ一緒にお楽しみください。

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奮起湖の朝。清々しい山の息吹とまばゆい光を放つ太陽を身体いっぱいに浴びる。絶好の散策日和だ。前方に広がる山並みを見渡しながら「阿里山はどの山?」と聞くと、阿里山は特定の山ではなく、台湾中南部にある玉山の西側エリアのことで、この辺一帯が全て阿里山なのだという。いつの間に、阿里山にいたなんて!

宿に隣接している奮起湖老街を女の子と歩く。「南台湾の九份」とも呼ばれる奮起湖老街は、台湾でもっとも標高が高い老街と言われている。コンパクトな老街だが、風情があって、他ではあまり見かけない地元の特産品や新鮮な果物が売られている。

小さなお店が隙間なく並んでいる
1943年創業のお菓子屋さん
炸彈脆餅

人気の「炸彈脆餅(zhà dàn cuì bǐng)」は日本語にすると「爆弾サクサクパン」。看板に書かれた「哇沙米(wā shā mǐ)」はわさびのこと。粉末状のわさびをパンにふりかけて食べるらしい。

新鮮な阿里山のわさび

他の店では新鮮な生わさびも売られている。日本統治時代に宮城県からわさびの栽培が台湾に伝わり、豊かな緑と清水に恵まれた阿里山一帯で今も生産されている。

鐵蛋のお店

黒々とした球体は「鐵蛋(tiě dàn)」という食べ物で、卵を醤油やスパイスなどで煮て乾かす工程を何度も繰り返してできる台湾発祥の名物だ。当時筆者が住んでいた淡水も鐵蛋が有名で、おやつ替わりによく食べていた。普通のゆで卵とは違い、むぎゅむぎゅとした弾力が特徴的。

次に目に飛び込んできたのはつやつやとした赤色。「樹番茄(shù fān qié)」は南アメリカのアンデス山脈が原産で、高山での栽培に適しているトマト。一般のトマトと比べてリコピンが7倍も含まれており、ビタミンも豊富。樹番茄のフレッシュジュースが売られていたので早速飲んでみる。

樹番茄(上)とそのフレッシュジュース(下)

トマトは野菜なのか果物なのかはっきりとした定義はないらしいが、この樹番茄は誰に聞いても果物だと答えるはず。「パッションフルーツ、キウイ、グアバが一体化した味」と形容されるが、まさにそんな味。瑞々しいフルーツの甘さが鼻を通っていく。お店の人に砂糖が入っているか確認したほど、甘い。

「もしかしたらもう売り切れているかも」と、やや駆け足で「奮起湖街仔尾阿嬤草仔粿」に向かう。ここは朝8時頃の開店前から行列ができる地元で人気の草餅のお店。幸運にも列に並ぶことなく作りたてを食べることができた。小さいころよく食べたよもぎ餅に似ていて、皮がもちもちしていて美味しい。

「奮起湖街仔尾阿嬤草仔粿」

阿里山森林鉄道に乗る前に目的地で食べるお弁当を買いに行く。奮起湖駅のすぐそばにいくつかお弁当屋さんがあるが「地元の人はここで買うよ」と、駅から少し離れたお店を教えてもらう。開店直後にも関わらず、店内は賑わっている。鉄道の時間に間に合うかどうか尋ねると「一個だけなら」と、先に渡してくれた。

厨房のなかを覗くとお弁当の箱でいっぱい
お店の近くにいた猫
紙のチケットが嬉しい

無事にチケットを購入。案内してくれた女の子は、民宿に戻って今日のお客さんを迎えるため、一人で阿里山森林鉄道に乗車する。阿里山森林鉄道は日本統治時代初期に建設が始まった産業鉄道で、木材を運搬する目的で作られた。以前父から、知り合いの宮大工が台湾まで木材の買い付けにいっていた、と聞いたことを思い出した。日本の様々な神社仏閣に阿里山の檜が使用されているのはよく知られた話だ。

阿里山森林鉄道は現在、観光鉄道として一日に一本から数本運行している*。もともと本線は海抜約30メートルの嘉義駅から海抜約2000メートルの阿里山駅まで運行していたが、2009年に発生した水害の影響で、今は阿里山駅手前の十字路駅止まりになっている。

*曜日によって変動あり

阿里山森林鉄道の車体

車内は満席。乗組員のアナウンスが入り、いよいよ出発だ。列車はすぐに山の中に入っていき、ジグザグに登っていく。緑との距離が近く、普通の電車よりも揺れるので、まるでアトラクションに乗っているような気分になる。速度が少し緩やかになり、乗務員がマイクで「今がシャッターチャンスです!」と観光気分を盛り上げてくれる。雄大な阿里山の緑の豊かさに心癒される。

突然、ガクン、と大きく車体が揺れ、ブレーキがかかる。前方を見ると、木が倒れて線路に覆いかぶさっていた。登山鉄道ならではのハプニング。運転手が外に出ると、すぐ乗客も手伝いに行く。助け合いの精神が素晴らしい。

倒れた木を取り除く運転手と乗客

奮起湖駅からおよそ30分ほどで十字路駅に到着。十字路駅は、かつては平地から山地の中間に位置していた。台湾原住民ツォウ族の集落である来吉(ララチ)や達邦(タッパン)の古道が合流する場所ということで、十字路という名前がついたらしい。ここは別の土地からやってきた人々が交わる出会いの場なのかもしれない。

海抜1534メートルにあるレトロな十字路駅
緑のレールが美しい
車体に描かれた姉妹鉄路の標章

停車中の車体に台湾と日本の国旗が描かれていることに気がつく。阿里山森林鉄道は、1986年から静岡県の大井川鉄道と姉妹鉄道協定を結んでいる。

この二つの姉妹鉄道は、斜面の走行に特化した「アプト式鉄道」であること、森林資源を輸送していた歴史、時流とともに観光列車へシフトしたことなどの共通点を持つ。ちなみに1986年は私の生まれた年で、調べてみると姉妹鉄道締結日と誕生日が近かった。ちょっとした偶然が嬉しい。

十字路駅の隣に展望台と併設する飲食スペースがあると知り、そこでお弁当を食べることにする。もともと派出所だった二階建ての木造の建物には、十字路駅周辺の古い写真が展示されている。

日本統治時代の十字路駅の様子も

大きなテーブルで家族連れがお茶を飲みながら談笑していたので、軽く会釈をしてから、邪魔にならないように近くの小さなテーブルでお弁当をひろげる。柔らかくジューシーな鶏肉、しっかり味が染みた煮卵、瑞々しい山菜。幸せを噛みしめながら写真を撮っていると、家族連れから「良かったら台湾茶とデザートをおすそ分けしますよ」と声をかけられた。条件反射的に「いいただきます!」と答えてしまい、完璧な昼食の出来上がり。

骨付き鶏もも弁当と台湾烏龍茶
愛玉ゼリーの黒糖タピオカトッピング。
愛玉は海抜1400メートルから1800メートルの間に生える高山植物
展望台からの光景
はるか遠くの山々がはっきり見える
笑顔が素敵な台湾人一家と

偶然にも、次の日の目的地である台南から旅行に来た一家だった。早速台南の美味しいご飯屋さんの情報をゲット。留学の話などで盛り上がっていると、インスタのストーリーズをみた台北に住む台湾人の友人から「線路沿いに教え子が経営しているカフェがあるからぜひ行ってみて」とメッセージが届く。

「鳴心咖啡」

線路沿いにある鳴心咖啡は、大学の教授である友人の教え子の孟儒さんが、2018年に故郷の十字路に戻り、実家を改造したカフェだ。孟儒さんに挨拶すると「わざわざ来てくれてありがとう!お世話になった先生の友達だから、ご馳走します」とカフェラテを淹れてくれた。その直後、友人からも「僕が珈琲代を払うから、ゆっくり過ごしてね!」とメッセージが入る。台湾人のおもてなしの心に頭が下がる。

孟儒さん(上)と阿里山の珈琲豆を使用したカフェラテ(下)

十字路駅から折り返しの列車に乗り込み、奮起湖駅に戻る。嘉義駅に戻るバスまで少し時間があったので、奮起湖のもう一つの観光スポット「奮起湖百年老老街」へと向かう。人気がない山道を歩くと霧が出てきた。さっきまで青空が広がっていたのに、一気に秘境に迷い込んだかのようだ。

奮起湖百年老老街入口

奮起湖百年老老街は奮起湖でもっとも早く栄えた集落で、交易や信仰の中心にもなっていた場所。清の嘉慶(1796-1820)にはすでにこの老街が存在していたそうで、200年以上の歴史を持つ古い街だ。日本統治時代の看板や宿舎もあり、近年は観光地として訪れる人も多い。ここは「電影街(映画街)」とも呼ばれていて、まるで映画のセットのなかにいるような気分になる。

古い日本のポスターが貼られている
レコードショップ
「奮起湖文史陳列室」
日本統治時代の警察官の宿舎だった建物

次の目的地へ向かうバス停に到着。仕事を終えた宿の女の子と彼が見送りに来てくれた。阿里山森林鉄道と日本の鉄道が姉妹鉄道だったことを知らなかったと話すと、他にも日本と台湾には42もの姉妹鉄道があると教えてくれた。小さな出会いのレールを繋ぐ旅は、思い出を載せてどこまでも。

>>>次回へ続く

文・写真=岩澤侑生子

岩澤侑生子(いわさわ・ゆきこ)
1986年生まれ。京都出身の俳優。京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)映像舞台芸術学科卒。新国立劇場演劇研修所7期修了生。アジアの歴史と中国語を学ぶため、2018年から台湾に在住。これまでCM、MV等の映像作品の出演や台湾観光局のオンライン講座の司会を務めた。2022年8月に淡江大学外国語文学院日本語文学科修士課程を修了し、日本へ帰国。
HP:https://www.iwasawayukiko.com/
Twitter:https://twitter.com/iwabon

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