切っても切れない大事な島|沖昌之(猫写真家)
猫写真を撮り始めたのが2014年。
2015年に新潮社より『ぶさにゃん』という写真集が刊行され、我ながらプロっぽいことしてるじゃんと思っていたのですが、撮影場所は自宅から徒歩30分圏内とテリトリーが異様に狭く、趣味で猫の撮影をしている友達のほうが猫島を訪れた回数が多くて、こんなプロ恥ずかしいなって気持ちと、自分が猫島に行ったらどんな写真を撮るんだろうという興味が相まって、猫島に行ってみようと決意したのが2017年。
3年近く動かなかった重い腰をあげ、向かった先は香川県の佐柳島でした。
30代後半まで数えるほどしか一人旅をしたことがなかったので、宿泊の「何泊」の意味もいまいちわからず指折りながら数えていたし、飛行機に乗るときは保安検査場でベルトを外さないとダメなことを知らずにもたついたり、なんなら国内線なのにパスポート持ってなくて大丈夫なのかって不安になったり……。強烈なダメ人間でしたが、どうにか多度津港からフェリーで1時間くらい波に揺られ、佐柳島の本浦に到着。
都内では猫が5~6匹集まっているだけでも上等なのに、佐柳島では桟橋を歩いて1分も経たないうちに猫の大群が眼前に現れ、どうやって撮っていいかわからなくてテンパったのも今となってはいい思い出かな。
3月の瀬戸内の気候は穏やかですごしやすく、島民の方は旅人にやさしくて気軽に挨拶をしてくれるので、若干コミュ障な自分にとっては本当に救われました。
猫は島民以上にフレンドリーで、ご飯やおもちゃを持っていなくても側にやってくるし、24mmのレンズの焦点距離より近づくので「撮影できないやん……!」って嬉しい悲鳴を上げながらも猫を撫でていました。
癒されたなぁ。
今では10回以上、佐柳島に訪れています。ネコノシマホステルという島唯一の宿泊施設に1週間くらい滞在、日の出から日没までひたすら撮影し、夕食後は写真のピックアップや色の調整と、合宿のような修羅な生活を送っています。日中は島民の方が家でくつろいでいることもあり、外の世界には自分と猫だけしかいない、瀬戸内海の優しい波の音に癒される時間でもあります。
猫がまったりとして動かず、撮影できないなって時は自分も防波堤にもたれながら、猫と一緒にうとうと眠っていることもあります。
佐柳島は自分の作品にとって、自分の人生にとって、切っても切れない大事な島になってきました。
文・写真=沖 昌之
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