月岡芳年の浮世絵と現代のアーティストが織りなす神秘の空間──ホテル雅叙園東京「月百姿×百段階段〜五感で愉しむ月めぐり」
「月百姿」とは幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師、月岡芳年(1839-1892)の晩年の大作。日本や中国の物語や詩歌、歴史上の逸話、武士や女性、妖怪や幽霊など、月にまつわる百の場面が描かれたシリーズです。
本展では、浮世絵コレクターとして知られる斎藤文夫氏のコレクションの中から「月百姿」の作品20点を前後期に分けて展示。現代のアーティストによる月をモチーフにした魅力的な作品にも出会えます。
文化財建築で味わう浮世絵
99段の階段が絢爛な7つの部屋を繋ぐ文化財「百段階段」で、浮世絵をテーマにした展示が行われるのは今回が初めてとのこと。長押に施された黒漆の螺鈿細工が美しい「十畝の間」では、行燈の灯りのもとで風流に「月百姿」を愉しむことができます。
また美人画の大家、鏑木清方が愛着をもって造った「清方の間」では、芳年の系譜を継ぐ清方*の画に囲まれながら、「月百姿」の作品を眺めることができます。ここでしか味わえない、時代を超えた貴重なコラボをお見逃しなく。
伝統的な技法で作られた“和紙の月”
「漁樵の間」に浮かぶ1200mmの美しい和紙の月は、灯り作家の高山しげこさんが構想から約3か月をかけて完成させたもの。漉き上がったばかりの和紙にシャワーなどで水滴を落として模様をつける「落水」という伝統的な技法を用いることで、月の表面のような表情が生まれると言います。
また黒っぽい模様は、紙の厚みを増すと背後から光を当てたときに陰影が現れるとのこと。衛星画像のようなリアルな月面ではなく、あくまで私たちが地球上から見ている月に近い表現をしたそうです。
五感で味わうお月見
つぎの「草丘の間」では、静かに響く虫の音と、プロジェクションマッピングによって刻々と表情を変える月が、私たちを幻想的な世界へと誘います。風に揺れるススキの間に立てば、月を背景に収めたフォトジェニックな一枚が撮影できます。
千年の時を超える普遍的な美
「静水の間」の床の間には、日本画家の岩谷晃太さんが和紙に岩絵の具で描いた掛け軸「月と稲妻」が飾られています。千年前の人にも、千年後の人にも伝わるような普遍的な美しさを描いたという作品は、日本画にはあまりない陰影をつけることで、立体感を閉じ込めたと言います。
月を眺めるということ
「星光の間」には、幼い頃から月に安らぎを感じ、憧れを抱いてきた芸術家の伊藤咲穂さんの作品12点が飾られています。なかでも目を惹くのは、部屋の奥に立てられた大きな屏風絵。ここには、地球にいる私たちと月のエネルギーが呼応し合い融合するイメージが描かれていると言います。
月は古来より、私たちの生活や文化と深く関わってきました。月岡芳年や現代のアーティストの研ぎ澄まされたフィルターを通してその姿を見つめ直すことで、私たちが日々の中で忘れてしまった大切なものを思い出すきっかけになるかもしれません。
文・写真=飯尾佳央
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