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花発多風雨|心に響く101の言葉(9)
奈良の古刹・興福寺の前貫首が、仏の教えと深い学識をもとに、古今の名言を選び、自らの書とエッセイでつづった本書『愛蔵版 心に響く101の言葉』(多川俊映 著)よりお届けします。
明日はもう会えないとしたら
温暖化といっても、冬の寒気はやはり厳しい。それだけに、春よ早く来い、の心境を誰もが共有している。暖かい陽ざしの下、桜の花を見上げれば、寒さに追われてせかせかした足取りも、自ずからゆったりとするだろう。
が、無情にも、花どきの天候は、きわめて悪い。文字通り、花に嵐である。晩唐の詩人・于武陵は、次のようにうたっている。
君に勧む 金屈巵(=盃の一種)、
満酌 辞するを須いず。
花発けば 風雨多し、
人生 別離足る。
この漢詩に、かの井伏鱒二が名訳をほどこしている(『厄除け詩集』)。
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトへモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
この中、――花に嵐のたとえもあるぞ/サヨナラだけが人生だ、の下二句が独り歩きして、よく知られている。どんなに生に執着しても、そのうち次世に旅立つのだし、なんでもありの世の中だ。いつ来るかわからぬ人との別離は、心のどこかでいつも覚悟していた方がいい。
明日はもう会えないとしたら、つまらぬ意地なぞ、お互い張れないではないか。
多川俊映(たがわ・しゅんえい)
1947年、奈良県生まれ。立命館大学文学部心理学専攻卒。2019年までの6期30年、法相宗大本山興福寺の貫首を務めた。現在は寺務老院(責任役員)、帝塚山大学特別客員教授。貫首在任中は世界遺産でもある興福寺の史跡整備を進め、江戸時代に焼失した中金堂の再建に尽力した。また「唯識」の普及に努め、著書に『唯識入門』『俳句で学ぶ唯識 超入門―わが心の構造』(ともに春秋社)や『唯識とはなにか』(角川ソフィア文庫)、『仏像 みる・みられる』(KADOKAWA)などがある。
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