高松盆栽の歴史は遡ること200年余り。野山に自生していた松を鉢に植え替え、金刀比羅宮の参拝客を相手に、土産物として販売したのが始まりだという。「雨が少なく温暖な瀬戸内の気候と、水はけがいい花崗岩の土壌が、松の栽培に適していたんです」。香川県盆栽生産振興協議会の会長を務める尾路悟さんが教えてくれた。
高松盆栽は、盆栽の代表格・黒松を筆頭に、主に松を扱う。高松市の鬼無町と国分寺町が生産地の中心で、最盛期の農家は300軒を超えていた。現在は60軒ほどに減少したものの、国内で生産される松盆栽の約8割を占める。
2020(令和2)年には、盆栽愛好家の裾野を広げようと、情報発信の拠点施設「高松盆栽の郷」をオープンさせた。松柏類*、雑木類*ともに豊富に揃い、約1万鉢を展示販売。気軽に見学や購入、体験ができる場所として好評だ。
中西珍松園では、重厚な黒松が印象的な玄関を抜けると、洗練された盆栽庭園が迎えてくれる。「庭の盆栽は季節ごとに変えています。盆栽次第で、表情ががらりと変わりますね」と5代目の中西陽一さん。希望があれば、盆栽の郷の案内もしてくれるという。妻の佳奈さん曰く、 「一緒に歩いて学びましょう」。
花澤明春園の5代目・花澤登人さんは、購入者へのアフターケアを徹底し、盆栽に対する不安を払拭している。身近な山野草を多数扱うのも信条だ。一方、幹がハートや星の形をしたポップな盆栽や、香川らしいオリーブの盆栽を手掛けるのは、6代目として家業に携わる娘の美智子さん。新しい風を吹かせてファンを掴んでいる。
樹齢100年以上も珍しくない盆栽は、気ぜわしい現代人にこそ、鷹揚かつ丁寧な暮らしを積み重ねる大切さを教えてくれる。「自由に自分のセンスで楽しんで」と登人さん。「水やりさえ欠かさなければ大丈夫。それが植物の強さであり、魅力ですから」
文=神田綾子 写真=佐々木実佳
出典:ひととき2023年11月号
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