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「ひととき」の特集紹介

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旅の月刊誌「ひととき」の特集の一部をお読みいただけます。
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#京都

作家・川内有緒さんが巡る京阪神のミニシアター[京都・出町座篇]

 中学生の頃、友人たちと映画館に「グーニーズ」(リチャード・ドナー監督)を観にいった。子どもたちが冒険し、宝船を見つける。その勇姿に興奮した私たちは、もう1回観ようと席に残った。当時は入れ替えがなく、何度でも映画が観られた。  2度目のエンドロールが流れる頃には、すっかり映画の魔法にかかっていた。「グーニーズ」を超える冒険大作を作ろう! と決意した私は脚本と監督を担当。カメラを回すのは同級生。子どもたちは、四次元世界を冒険し、立派に仲間を救った。めでたし、めでたし! 完成し

作家・川内有緒さんが巡る 京阪神のミニシアター ──「ひととき」2025年2月号特集のご紹介

志を持った作り手によるキラリと光る名作や、現代社会を映し出すドキュメンタリー作品など小規模ながら独自の視点で選んだ多様な映画を上映するミニシアター。いつでもどこでも気軽に映画が観られる時代、地域に根ざしたミニシアターでの映画体験には、どんな魅力があるのでしょう。作家で映画監督でもある川内有緒さんが、京阪神の「映画館のあるまち」を旅します。 <特集担当より> 本特集の旅人で筆者でもある川内有緒さんは、2021年10月号から2023年10月号までの2年間にわたり、「ひととき」で

骨董屋が語る、京都と骨董をめぐるお話|[特集]新春古都骨董探検

一、実際に「使える」骨董が、心を満たしてくれる 骨董に傾倒していく要素として、自らの経験を思い出してみると「使える」ということが大きかった。  江戸時代の器を日常生活に取り入れるという、日本の骨董界では当たり前のことが、世界の骨董、アンティーク界ではあまり当たり前のことでは無いのである。  欧米では家庭に代々伝わる食器や銀器のセットを来客時に使う、これは経験したことがある。  アジア諸国では、近年の経済発展で、中国茶器や器類の骨董を使う動きが出てきているが、私が旅行をし

磯田道史さんの京都・骨董流儀|[特集]新春古都骨董探検 

蓮月の「月」は鋭くハネる 磯田道史さんといえば、臨場感あふれる歴史語りで知られる人気の史学博士。出身は慶應義塾大学ながら、京都での学生経験もあり、馴染みの骨董商もあちこちに。  当時から博識のほどは有名で、磯田青年が史料探しに通りを歩いていると、それを見かけた店主が「磯田さんや、呼びこんで」と店員に言いつける。声をかけられ付いていくと、店の奥からおもむろにお茶、お菓子。そのうち「これ、読めますか?」と難読の掛軸や巻子が出てきて読まされることも度々だった。  そんな磯田さん

新春古都骨董探検(案内人:磯田道史さん)──「ひととき」2025年1月号特集のご紹介

新門前通、古門前通、寺町通などに個性ある古美術店が軒を連ねる京都。格調ある老舗から新進気鋭の若手店主の店まで、その数は100軒以上あるといわれています。今回の特集では、比較的気軽に入れる店から、なかなか足を踏み入れにくい古美術の老舗までご紹介。原史料を求めて骨董商をめぐることにも熱心という磯田道史さんを旅人に迎え、歴史学者の視点での骨董探訪をナビゲートしていただきます。骨董屋さんによる初心者向けの解説や、市内各地で毎月開催される骨董市の情報なども、ぜひお楽しみに。 <特集担

親子で楽しむ! 嵯峨野鉄道1dayトリップ|〔特集〕京都発、観光列車で巡る夏

 旅先の選び方が、子どもが生まれて変わった。自分が何をしたいかではなく、学習や情操教育を考え、探すようになった。京都はその意味で大変魅力的だが、わが子はまだ小学1年生。寺社めぐりは将来にとっておくとして、今回の旅は、親子で大好きな鉄道をテーマに少し足をのばしてみる。  まず、京都駅からJR嵯峨野線(山陰本線)で15分程度の嵯峨嵐山駅へ行き、そこで乗り換える「嵯峨野トロッコ列車」だ。 鉄道好きの息子は、車内で叫ぶ。 「あのトンネル、レンガ造りだ!」  嵯峨野トロッコ列車が

叡山電車「きらら」で貴船まで|〔特集〕京都発、観光列車で巡る夏

「京都の人は叡山電車で貴船に行きますか?」。夏のはじめに質問をいただいた。行きます行きます、少なくとも私が貴船へ行くときは、叡電です。  もちろん貴船へ行く方法はほかにもある。けれど、貴船は市内とはいえ、気温だけでなく、空気感もまったく異なる別天地。気の生ずる根源として「気生根」の字もあてるほど、そんな聖域へ足を踏み入れるには、いつもとはちょっと違う手続きが欲しい。  そうしたとき、鴨川デルタのほど近く、「出町柳」という小さな駅から1両か2両でゴトゴト走っていく叡電は、非

社会学者・中井治郎さんが見つめる観光都市「京都」の今昔|「そうだ 京都、行こう。」の30年

【ポスター ’96 冬】 【ポスター ’05 春】 【ポスター ’12 夏】  京都の歴史を、観光都市の側面から振り返ると、この街が初めて「伝統」を意識したのは、「都」を江戸に譲った時だったのではないかと思います。政の中心を江戸、商の中心を大坂が担う中、京都が拠り所にしたのは天皇を擁していること、すなわち「伝統」でした。よそから訪れる人に向け、いかにこの伝統をプレゼンしていくかを考える過程で、京都の観光文化は洗練されていったのでしょう。  明治の時代になり、天皇も京都

常盤貴子さんと桜色の京歩き|「そうだ 京都、行こう。」の30年

 京都を舞台とする数々の作品出演はじめ、昨今は京都府文化観光大使としても、古都の魅力発信に貢献する俳優の常盤貴子さん。京都好きは10代の頃からで、デビュー以来、わずかな時間を見つけては新幹線に飛び乗っていた、という筋金入り。 「冬の京都の、キーンと冴えた空気感も好きですが、ふらっと来たくなるのは、やっぱり春かな。あのCMの名コピーに何度、誘われて来たことか(笑)。ね? お誘いいただいているのならば……って、気分になるでしょ?」 【ポスター’10 春】  そんな常盤さんと

【京都】狂言師・茂山逸平さんらと“口福の涼味”

 和菓子はもとより、祇園文化も牽引する老舗「鍵善良房」の今西善也さん、旧山陰街道筋、人気の餅菓子に加え、夏場はかき氷も行列必至、「中村軒」の中村亮太さん、そして茂山逸平さんの3人が、これまた、予約の取れない鮨割烹「なか一」須原健太さんのお店へ集合。日ごろから「よく集まっては、ほぼ役に立たないことばかり喋る」という京男4人、逸平さん以外は、全員が美味しいものを拵え供する食のプロたち。この時季のスペシャリテから、名品誕生の裏話、京都人気質まで、とっておきの、夏の旨いもん話をお楽し

【京都】狂言師・茂山逸平さんに訊く「夏しごと、土用干し」

 7月末から8月前半にかけて、暑さもピークを迎える夏の土用に衣類や書物を陰干しして湿気を飛ばし、カビなどを防ぐメンテナンスは、以前は普通の家でもよく見かけた夏の風物詩的作業であった。  空調も整い「土用干し」と言えば梅干しくらいしか思い浮かばない昨今。しかし狂言の茂山家では、この時期、若手役者が集まって、のべ10日間ほど、「麻装束の糊づけ」と「面の虫干し」を行うのが恒例。その作業風景を逸平さんの案内で覗かせていただいた。  能、狂言の家では、面はもとより、装束や小道具類も

【東天王 岡﨑神社】おみくじも提灯も卯づくし「狛うさぎ」|京都 動物アートをめぐる旅

「京都は歴史があるだけでなく、同時に新しいものを受け入れる自由な気風がある。そこがこの街の底力だと思います」  伝統と現代を掛け合わせる竹笹堂*のセンスに心酔した様子の金子さんと訪れたのは、平安神宮近くの岡﨑神社。平安遷都に際して王城鎮護のため、都の東(卯の方位)に建立されたことから東天王とも称されている。また、かつてこの地域一帯にノウサギが多くいたため、兎は氏神の使いと伝えられている。その境内には、昭和時代の提げ灯籠などとともに、平成と令和に建立された狛犬ならぬ「狛うさぎ

風船みたいなぷっくり象(養源院・俵屋宗達『白象図』)|京都 動物アートをめぐる旅

「涅槃図には動物たちがたくさん描かれているでしょ。お釈迦様の死を動物たちが泣いて悲しんでいる絵。とくに象は、大きな体をよじるようにして、おいおい泣いている。あれを見るとすごくきゅんとしてしまうんです」  京都に向かう新幹線の中でそんな話をしてくれた金子信久さん。動物を探しながらの京都美術散歩のトップバッターは、洛東にある養源院だった。1594(文禄3)年、豊臣秀吉の側室・淀殿が父・浅井長政の追善のために建立した寺である。 「ここには、俵屋宗達が描いた素晴らしい白象がいるん

京都――タイルと建築100年の物語【紀行2:さらさ西陣・築地・1928ビル】

和製マジョリカタイル貼りの 銭湯をリノベーション「さらさ西陣」「朝風呂気分ですね」(中村さん)  木の扉を開けてお邪魔したのは、北区紫野にある「さらさ西陣」。木造2階建て、築80年の銭湯・旧藤森温泉をリノベーションし、2000(平成12)年にオープンしたカフェである。建物は国の登録有形文化財になっている。天井の湯気抜きから差し込む日差しの下で、中村さんが大きく伸びをした。 時代を越えて愛される空間  曲線を描いた唐破風を頂いた外観とは一変。格天井の元脱衣場の向こうに現れ