【京都】狂言師・茂山逸平さんらと“口福の涼味”
和菓子はもとより、祇園文化も牽引する老舗「鍵善良房」の今西善也さん、旧山陰街道筋、人気の餅菓子に加え、夏場はかき氷も行列必至、「中村軒」の中村亮太さん、そして茂山逸平さんの3人が、これまた、予約の取れない鮨割烹「なか一」須原健太さんのお店へ集合。日ごろから「よく集まっては、ほぼ役に立たないことばかり喋る」という京男4人、逸平さん以外は、全員が美味しいものを拵え供する食のプロたち。この時季のスペシャリテから、名品誕生の裏話、京都人気質まで、とっておきの、夏の旨いもん話をお楽しみあれ。
茂山 今日はお忙しい中ありがとうございます。まずは乾杯!
一同 乾杯!
須原 ではさっそく、鯨のお椀から。
茂山 え? いきなり鯨?
今西 一発めに鯨はキツい(笑)。
茂山 夏になると、いっぺんは食べとうなるんやけどね、僕は。でもなんで暑い盛りに、こんなこってりしたもん食べるようになったんかなあ。
須原 暑気払い。鰻食べたりしてちょっと精つけよか、というのと同じやね。
茂山 これはもうお料理屋さんでしか食べられへん味やね。この時季になったら、ここで、これを食べる。夏場にそんな濃いもん、よう食うなあ、と言われても。
──皆さんそれぞれ、この時季はコレ食べておかないと、という夏の定番はありますか?
中村 僕、白ズイキが好きです。
茂山 普通のズイキとは別物?
須原 料理屋用に、日光に当てんと育てられた真っ白なズイキ。
中村 煮浸しでも胡麻和えでも、葛引きでも。暑い時季に冷たい器にちょこっと出てくると嬉しい。
今西 祭りの時の鯖寿司とか、鱧とか。秋の鱧のほうが脂乗って美味しいと思うけど、やっぱり夏になったら、食べとかんと、という気にはなるなあ。
須原 はい、鱧、ご用意してます。今日は焼き霜*で。
今西 鱧は初夏から秋まで、趣向を変えていくのも大変やろうね。
須原 走りの時は、主役やなしにお椀くらい。それが盛夏になってくると、コースの中で鱧料理を2、3品は出すんで、〝落とし〟を食べ慣れてはる人には骨切りして皮を引いて、ちょっと塩あてて、お造りとか。鱧の骨でとったスープ、ジュレにして載せたり。
三人 ほおっ。
須原 秋口になって徐々に鱧の味に力がなくなってくると、土瓶蒸しとか。逆に脂が落ちてきた淡白さがお吸い物にちょうど良うなる。そこから名残の鱧と松茸で、鱧しゃぶ……。産地によっても違うけど、時季に沿って出し方も変わりますねえ。
茂山 なるほどなあ。亮太くん(中村軒)とこのかき氷も、やっぱり外せへんよなあ、遠いけど。
今西 桂の、あそこまで行くの、小旅行やもんなあ。それにしてもかき氷の人気、すごいね。
茂山 この前、娘が、兄の十三詣り*について行くのを嫌がったとき、「一緒に行ったら、帰りに美味しいかき氷とお赤飯を食べさせてあげる」と口説いたら行ってくれた、おかげさまで。
中村 ありがとうございます。こないだ、逸平さんにも召し上がってもらいましたね、「桂うり氷」。
茂山 そう、僕、いつもはミルク派なんやけど、亮太くんが熱心に勧めはるし食べてみたら、ほんまに美味しかった。上品な甘さで、爽やかで、あれはおっさんも喜ぶかき氷(笑)。でも、「桂うり」て珍しいね。
中村 土地のもので、うちにしかないものができないかなと。「桂うり」は昔ながらの品種で、かけ合わせて病気に強く、みたいなことはないので農家さんにはなかなかつくってもらえない絶滅危惧種。今は、京都府立桂高等学校の生徒さんが、伝統野菜を守る目的で栽培してるのを使わせてもろてます。
茂山 貴重なもんなんや。
中村 見た目は地味ですけど、召し上がれば好きになってもらえるかな、と。
構成・文=安藤寿和子 写真=伊藤 信
――この続きは、本誌でお楽しみになれます。自分へのご褒美のほかに、人に差し上げたい夏の味について、名店・鍵善の品のほか、当代の今西善也さんが手土産にする菓子などについて語りあいます。またこの特集記事では、「京の夏しごと」として、茂山逸平さんが“清水寺の千日詣り”へ訪れます。8月9日から16日の千日詣りは、千度のお詣りの功徳をたった一日でいただける機会であり、普段は立ち入り不可の本堂内々陣への参詣路が開く貴重な時。ぜひ本誌をご一読ください。
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出典:ひととき2023年8月号