見出し画像

137 校正、校閲、AI。

校正は苦手です

 自分の出版関係のキャリアは、小規模な媒体からはじまった。いや、かなり大がかりな出版(業界紙だ)ではあったけれど、仕組みはシンプルだった。取材する、原稿を書く、印刷する。ほぼその3ステップだった。
 書いた原稿は編集長がチェックし、印刷工程へ送られる。するとゲラが出てくる。ゲラのチェックは基本、原稿を書いた者が行う。行数の調整はレイアウト担当の編集者と編集長の指示に従う。「5行多い」とレイアウト担当に言われて、編集長が「切れ」と言えば、原稿を書いた者が四苦八苦して5行削る。あるいは、編集長が「そのままでいい」といえば、レイアウト担当者が四苦八苦して調整して納まるようにする。
 責了紙があがってくる。あとは印刷するだけのカタチになっている。それを全員で読む。それが私の最初に学んだ校正だった。校正専門家はいなかったのである。
 そして、私はそれが苦手だった。
 同じ会社で雑誌の編集をやることになったときも、校正は新聞から応援を頼み、数人の編集で原稿を廻し読みして対応した。雑誌の場合は、初稿、再校、三校が通常で、著者からの修正が遅れて入ったときなど念校といってそこだけイレギュラーに出してもらってチェックしていた。
 さらに苦手なのが「読み合わせ」である。官公庁などいまでも読み合わせの文化は広いと思う。ひとりが原稿を読み、もうひとりが校正紙を見て間違いを探すやり方。これ、すごく疲れますよね。苦手だ。
 その後、もう少し大規模な出版に携わるようになると、校正者がいた。そして、実にきっちりと「修正」(赤いペン)と「疑問」(鉛筆か青ペン)が書き込まれて、ゲラ(初稿)が戻ってくる。
「こんなにあるのかよ」と最初はうんざりした。だいたい、校正段階まで行けばもう出来たような気になっているので、知力体力ともに衰えていて、「今夜はどこで飲もうか」的な散漫な頭になっている。そこに、ゴリゴリのパワフルな赤字(修正や疑問のこと校正者による書き込み全般)が突きつけられると、ため息が出てしまう。
 自分が校正を不得意であるのだから、専門家にここまでちゃんとやってもらえることはありがたいことなのである。それでも、ため息が出るのだ。
 揃いも揃って、こんなことにも気付かずに原稿が完成したと思ってしまっているなんて……。というわけだ。
 もっとも、私がこの仕事についた当初は、活版だったので、修正の多くは原稿と違う文字が配置されていることを指摘する作業だった。活版だと文字が横に倒れたり、逆さになったり、文字の大きさが違っていることもけっこうあったのだ。
 その後、電子写植になって、さらに原稿データを直接組んで版下にするようになると、重要なのは「正しい日本語か?」「使っていい表現か?」「事実誤認はないか?」といった点へ移行する。

一太郎の校正に頼る

 ジャストシステムの「一太郎」を長年、愛用している。一般的にはマイクロソフトの「Word」が標準だろう。初期の「Word」はとても使いにくく、しかも校正機能がなかった。あることはあったが大したものではなかった。「一太郎」の校正は、長年使っていて、とても使いやすく便利である。そうやって校正した原稿を、Word形式、あるいはテキスト形式にして提出する、といったことをしていた。
 正しい日本語としての校正については、「一太郎」でもかなりカバーできる。常用漢字、正しい表現、漢字の送り仮名などだ。とはいえ、この校正機能は勝手に修正するわけではなく、「これが怪しい」と指摘するだけで、それを修正するかどうかはこちらしだい。つまり、自分がミスをすれば、そのまま修正されずに次の段階へ進んでしまう。
 それでも、私なりのやり方としては、出来上がった原稿について「表記のゆれ」をまず見る。数字表記が漢数字と算数字、全角数字と半角数字といったこともチェックするし、漢字にするかしないかの統一もある。この「表記のゆれ」は、なにもかも統一すればいいというわけではなく、「におい、臭い、ニオイ、匂い」などニュアンスで使い分けているなら、どれかに統一してはいけないわけで、同時に、自分のクセも発見できるので便利だ。ただ、老眼になってくると、ウィンドウが小さくて拡大できず不便さも感じる。
 その上で校正をする。校正は自分の方針に沿って精度を変えられる。

AIなら、すべて任せられるか?

 さらに、近年では重要さが増している「校閲」は、いまのところ、自動化は難しい。事実確認、引用文が正しく引用されているのか、「一昨年の豪雨」と記していたとして、それは本当にあったのか。そもそも間違った記述に基づいて書いていないか。初版の記述と最新版では変わっているかもしれないし。気にしたらキリがないけれど。
 たとえば、文字起こしについてはAIは、急激に進歩している。かつてはめちゃくちゃで、AIの文字起こし原稿を直すより、自分で音源を聞いて書き起こした方が速かった。それがしだいに気の効いた文字起こしになってきて、いまではかなりの水準まで来ている。
 さらに期待したいのは校閲だろう。
 AIのもっとも得意そうなところとして、対象となっている文章が、誰かの書いた既出の文章に似すぎていないか、といった点をチェックしてくれそうだし、事実の確認も気象、天文、技術、歴史などの分野できっちりやってくれそうな気もする。
 そして、もっと期待すれば「この段落はあなたらしくないので、もう少し工夫してはいかが?」といったアドバイスも貰えるかもしれない。人は、どうしても影響を受けやすく、気付くと最近読んだ本の語調を真似ていたりするから、AIなら、そういうのを見つけるのも得意そうだ。
「あなたの文章はおもしろくないので、試しに書き直してみました」とAIが書いてくれるかもしれない。いや、余計なお世話だ。
(なお、このnoteは校正も校閲もなしで、即興的に書いているので間違いがありましたらご容赦願います。)

色をつけてみたよ


 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?