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244 うるさいやつらがいなくなると、イノベーション

大谷は野球を変えたのか?

 日本経済のパワーが落ちている理由は明らかだ。日本は米国経済とのリンクを強固にした。米国には世界から頭脳と資本が集まっているので、極めて生産性の高い経済となっている。私が思うに、「生産性を上げろ」という議論は、いまの状況では不可能だ。親の総取りである。最初から収益の大半は米国経済へ流れるのだから、この状況で日本だけが生産性を上げてGDPを高めることなどできない。日本のGDPが下がっているのではなく、米国のGDPの一部になっている。
 簡単に言えば、スマホ、SNS、サブスクを利用している日本人は多い。そこから得られる収益は米国へ向かって流れていく。つまり、日本経済の中でイノベーションを叫んだところで、肝心な部分(とくに資本)は、米国に頼ることになり、結果的に収益の多くは吸い上げられていく。このため、日本は成長しない。できないし、米国から見れば「成長しなくていい」のである。できれば成長することなく、現状維持で割安な観光立国として清く貧しく生きてくれればいい。じゃないと、ただでさえ米国は中国との競争でヒーヒー言っているわけだから。「いまは対中国で忙しいから日本は黙ってて」と言うことだろう。
 大きすぎる話なので、こんな推論(邪推)はこの辺にしておいて、今日書きたいことはそれと近くて遠い話だ。
 日本経済の中心にある産業の多くは、100年ぐらい継続している。もっと古い産業もある。創業時とビジネス内容に変化はあるかもしれないが、とにかく継続している。あるいは合併し変容しながら継続している。
 そのような「伝統」が、いまの時代の私たちの経済の柱だ。さらに定年の延長となれば、その企業に50年以上勤める人も増えることだろう。
 つまり、硬直化だ。
 人材の流動化がどうのこうのと騒いでいた頃が懐かしいけれど、実はその一方で硬直化も進んでいる。確かに個人ベースで見れば流動化しているかもしれない。極端な話、大谷選手のように、日ハムからエンゼルス、そしてドジャースと移っているが、やっていることは基本は同じ。同じやるならよりよい環境、よりよい利益を得られるところへ移りたい。そう言う意味での流動化はすでに実現していると言ってもいい。
 だけど、野球というスポーツで見れば、日ハムでもドジャースでも、まったく同じである。いや、スポーツとして違ってしまったら困る。個人記録を比較することができなくなる。
 つまり、そこにイノベーションは発生していない。「大谷は二刀流を生み出したではないか」と言うかもしれないが、厳密に見れば、過去にも二刀流の選手はいたわけだし、根本的に野球を変えたとは言えないだろう。いやまあ、ファンは「大谷が変えた」と言いたいのはわかるけど、だったらどうしてベーブ・ルースと比較するのか? 細かく見ればベーブ・ルースの野球と大谷の野球は比較できないはずだ。ま、この議論は大して意味はないのでここで終わりにするけど、私は大谷ファンだから、けなしているのではないことだけははっきりさせておく。彼のプレーを見ることは最高におもしろい。それは間違いない。ただ、根本的に野球をイノベートしたわけではない。むしろ野球を原点に戻してやれることは全部やろうとしている。それが痛快なのである。

うまく引き継げないことが大事

 事業承継とか、代々守った伝統とか、そういう美しい世界は守るに値する。文化財や芸能と同じで、継承できるものは可能な限り継承すべきだろう。だけど、今後の少子化によって、バッサリと空白が生まれることもあり得るだろう。
 私が言いたいのは、継承できないことを必要以上に大きな問題にすることはない、ということだ。
 ある優れた技術を持つ中小企業のドキュメントを見たら、その技術を発揮しているのはほとんど高齢者だ。そこに若者がひとり、なんとか引き継ぐべく頑張っている。これは日本の産業の縮図だろう。その若者が倒れたら終わるのだ。
 とはいえ、若者から見た光景はどうなのか?
 希望を胸に抱いて入った企業は高齢者ばかり。みなマイスター。その技術は簡単には習得できない。いつまでたっても、追いつけない。その間にポツンポツンと歯が抜け落ちるようにマイスターは消えて行く……。
 この職場でいったい、なにができるだろう?
 イノベーションとは、そこからはじまるのではないだろうか。簡単に言えば「うるさいやつがいなくなったら、好きにやれるよね!」ということだ。もちろん、大失敗もするだろうけれど、大失敗の反対が大成功なのだから、「私、失敗しないので」と言うことは成功もないってことだと思う。船頭が多いと、「失敗しない」点では十分にカバーされているかもしれないが、成功のチャンスも同時にほとんどなくなってしまう。
 いまの日本の政治を見ていても、同様のことを感じるけれど、それは不穏当な発言につながりそうだからここでは語らないことにしよう。

これは道かな。まだ半分もできていない。


 

 

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