No.4『死命』ーフリースタイル書評バトル第3回「型破りエピソード芸人」
■第3回「型破りエピソード芸人」参加芸人
当記事は、こちらの参加者のうち誰か1人が執筆したものです。
・錦鯉 長谷川雅紀 (ソニー・ミュージックアーティスツ)
・蛙亭 岩倉美里 (吉本興業)
・スタンダップコーギー 奥村うどん (マセキ芸能社)
・春道 櫻間心星 (フリー)
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No.4『死命』
コーヒーのブラックが子どもの時全然美味しくなかった。でも大人になったらこの苦味がいい、美味しいって感じるからみんな飲む。
僕が読んだ『死命』はブラックコーヒーなんじゃないかと、こんな苦々しいものありゃしない。これを読み終わった時、心がぺしゃんこにされた。だけどこんな心持ちが悪いと感じなかった……これが大人になったということなのか?この重苦しい気持ち、嫌じゃない。
デイトレードで成功した榊信一が主人公。彼は自分のなかにある得体の知れないどす黒い欲望が「女性への殺人衝動」だと気付く。余命宣告をきっかけにその衝動に対してのタカ(編集者注:タガ)が外れ、「命」が尽きるまで究極の快楽に溺れるという悪魔の所業。しかしそれに反して、元恋人の山口澄乃が頭から離れない。かけがえのない存在である澄乃との幸せを夢見るのだ。
そしてこの殺人事件を追う刑事・蒼井凌が、徐々に榊の元へ辿り着く。誰に何を言われようが自分の直感を信じて突き進む。そんな蒼井にも奇しくも同じ病が襲い……。
僕にも得体の知れない感情はたまにある。心にうっすら膜が張られてて、昨日の寝るまでの1日はめちゃくちゃ充実してたのに、今日はなんかどんよりと重たくて何かしようとしても手につかない、なんだこの気持ち?と……。
結局それは昨日が楽しすぎただけだったりする。
もしかしたらこの楽しすぎた昨日とどんよりした今日が、榊にとっての澄乃と一緒にいる時間とあの衝動に駆られていた時なのかもしれない。もちろん榊のようなとんでもない悪魔を心に飼ってはいない。絶対に。ただ何かをきっかけに突然悪魔が出てくるかもしれない。悪魔どころかサタン級が出てくるかもしれない。
その時あなたは自分自身のその欲求を否定することはできますか?それも「命」の期限が限られてると言われた時。
この『死命』ではそんなもしもが曝け出されている。でもそんななかに「幸せ」もあり、溢れんばかりの「欲求への汚さ」が詰まっている。でも目を瞑らず、蓋をしないで、そんな悪魔に魂を売った榊・それを追う蒼井・そして澄乃をどうか皆さんにも見守ってもらいたいです。
ちなみに本当のブラックコーヒーはずーっと子どもの時と一緒で美味しくはない。
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