衝撃の新人類史~「地球星人」を読んで~
私は、人間を作る工場の中で暮らしている。
私が住む街には、ぎっしりと人間の巣が並んでいる。
上記は、芥川賞受賞作家の村田沙耶香さん著、「地球星人」より。
今回は、「衝撃的傑作」と呼び声高いこの作品について、ご紹介していきたいと思います。
どんなお話か
一言で言うと「世間の常識からの脱却、その新人類史」と言ったところでしょうか。異論は認めます。
村田沙耶香さんの物語には、毎回驚かされているのですが、今回もまた手の平の上で転がされておりました。
と思っていたら、突然強く握られて、そのまま壁に投げつけられたような衝撃です。
「仕事」、「結婚」、「出産」、これらは現在「当たり前のこと」として、多くの人に捉えられています。
しかし、村田沙耶香さんのお話は、こういった部分に、鋭くメスを入れ、さばいていく。そして、誰もが見て見ぬふりをしている部分を、突き付けてきます。
読んだ後には、何が“正しく”て、“普通”とは何なんだと、全てを疑いたくなるのです。そして、「人間とはこんな文章が書けるのか」と毎回、息を飲んでしまいます。
どんな人に読んでほしいか
① 普通の小説から、一線超えた作品を読んでみたい方
② 世の中の「常識」に、疑問を感じたことがある方
③ 「自分は他の人と感覚が少し違う」と、感じたことがある方
④ 地球に滞在中の宇宙人の方
あらすじ
小学五年生の奈月は苦しい生活を送っていました。
ことあるごとに自分を罵倒する母、同じように蔑んでくる姉、無関心な父。
奈月は、そんな家族から一歩引いて生きていました。
奈月の心の支えは、「自分はポハピピンポボピア星からやって来た、魔法少女である」という妄想と、いとこでありながら、同時に恋人でもある由宇の存在でした。
由宇は自分を、「別の星から来た宇宙人」と言っており、魔法少女である奈月と、お互いの秘密を守る間柄になったのです。
由宇とは、毎年夏に親戚一同で集まる、長野の自然豊かな、秋級(あきしな)の家で会うことができます。
奈月と由宇といった子どもたちは、小川で遊んだり、「すいこ」を食べたりして、普通の子どもと何一つ変わらない、夏の一時を楽しんでいました。
そして、小学五年生の夏、奈月と由宇は「結婚」をします。田んぼの奥のお墓で、ぬいぐるみの「ピュート」が牧師を務め、針金の指輪をお互いにはめて。
二人は、夫婦の誓いを立てました。
それは、「なにがあってもいきのびること。」
来年の夏、また会うために、と立てられたこの誓いは、奈月の人生に今後、大きな影響を与えていくことになるのです。
奈月は、自分が住んでいる世界のことを「工場」と表現します。
つがいとなった人間のオスとメスが、巣の中で子どもを作り、その子どもは社会へ出荷される。出荷された人間は、世界の道具になって、他人から貨幣をもらい、エサを買う。
やがて、出荷された人間もつがいとなり、巣に籠って子作りをする。
ここは巣の羅列であり、人間を作る工場でもある。私はこの街で、二種類の意味で道具だ。
一つは、お勉強を頑張って、働く道具になること。
一つは、女の子を頑張って、この街のための生殖器となること。
私は多分、どちらの意味でも落ちこぼれなのだと思う。(本文より)
奈月は、家族から無碍に扱われてきたためか、自分を低く評価していました。
そして、奈月にはもう一つ、甚大な悩みがありました。
それは、奈月が通う塾の講師、伊賀崎先生からの変態行為です。
伊賀崎先生は、小学生の奈月に対し、性的衝動を覚える、変態的嗜好の持ち主でした。
奈月は、由宇と立てた誓い「なにがあってもいきのびること」を胸に、自らを取り巻く苦難に耐え、過ごしていました。
そして、次の年の夏。
再会した奈月と由宇は、一族を揺るがす大事件を引き起こします。
その事件をきっかけに、二人は離れ離れになることを余儀なくされ、会うことすらも許されなくなりました。
由宇との別れから数十年後、34歳になった奈月は、ネットで見つけた夫の智臣と暮らしていました。
二人は、「この地球は『工場』である」という価値観で一致しており、性行為なしの婚姻生活を送っていました。
都会育ちの夫の希望で、久しぶりに秋級の家に訪れた二人ですが、そこで奈月は由宇に再会します。
しかし、由宇はその時既に、「地球星人」に洗脳されかけていました。
もはや周りの人間に迎合し、「地球星人」に洗脳されることで、楽になるのか。「ポハピピンポボピア星人」として、「工場」から脱出し一人で生きていくのか。
迷う奈月。しかし、その根底には「生きのびる」という、絶対的な信念がありました。なぜかそこには、動物的な、本能的な強さを感じさせるのです。
奈月は生きるために、「地球星人」と「ポハピピンポボピア星人」どちらの道を選ぶのか。由宇は、「地球星人」として「工場」の中で生きていくのか。
クライマックスは鼓動が収まらない、衝撃の展開が怒涛のように押し寄せてきます。
読み終わったあと、あなたはどんな感想を持つでしょうか。
「面白かった」
「なんかよく分からなかった」
「グロかった」
きっと賛否両論あると思います。
しかし、僕はこの物語を読んで、「自分が今信じている『常識』を、見つめ直す」きっかけになりました。
村田沙耶香さんの物語は、人間が生きる上で、なぜか大事にしていること、誰が決めたかも分からない、暗黙の了解に対して鋭く突いてきます。
その文章、展開、メッセージ性、全てが癖になる。もうやめられません。
僕はすっかり村田沙耶香ワールドの虜です。
この話を聞いて興味を持っていただけた方は、ぜひ読んでみてください。
皆さんにとって素晴らしい、読書体験になることをお約束します。
※ただ、この話は、一部に過激な描写や表現が含まれています。苦手な方は、一度内容を軽く確認し、読むか判断することをおススメします。
それでは今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
皆さんの好きな本も教えてくださいね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?