夏の終わりに心からの一冊を~「ペンギン・ハイウェイ」を読んで~
「この謎を解いてごらん。どうだ。君にはできるか?」
お姉さん(ペンギン・ハイウェイ)
気がつけば昨日の投稿で20投稿目でした!!
驚きと、いつも読んでくださる皆さんへ感謝の気持ちが止まりません。
にっちもさっちも右も左も往々している僕ですが、今後ともよろしくお願いします。
さて今回は、昨日に引き続き本の話題を。
「ペンギン・ハイウェイ」という物語をご存知ですか?
「ペンギン・ハイウェイ」は、森見登美彦さんが2010年に発表した作品です。
第31回日本SF大賞を受賞しています。
2018年には、アニメ映画化もされ、全フジカワが感動しました。
また、フジカワ的「子どもが生まれたら、そっと家の本棚に差し込んでおきたい本」の一つでもあります。
どんな人向け?
このお話は、僕的に「いい大人」に読んでほしいと思っています。
何故なら、主人公が「ちょっとませた子ども」だからです。
彼の視点から描かれる情景は、きっと誰しもが触れたことのある世界。
大人になって当たり前になってしまった感覚を、もう一度あの日と同じ目線に戻してくれます。
しかも、このアオヤマくんは「ちょっとませている」。
だからこそ、口が達者で読みやすく、大人になり始めた頃を思い出させてくれます。
どういうお話?
これは、小学四年生のアオヤマくんと、同じ街に住む少し不思議なお姉さんとのお話です。
アオヤマくんは、「えらい人間」になるために、毎日いろんな研究ノートをせっせと記す、探求熱心な少年。
えらくなった時を想像して、アオヤマくんは、「結婚してほしいと言ってくる女の人もたくさんいるかもしれない」と小さいくせに、生意気なことをいいます。
しかし、彼には思い人がいました。
「けれどもぼくはもう相手を決めてしまったので、結婚してあげるわけにはいかないのである」
その相手こそが「お姉さん」です。
お姉さんは、アオヤマくんが通う歯科クリニックで働く、歯科衛生士さん。
アオヤマくんは、お姉さんのことを、そしてお姉さんの「おっぱい」のことに興味深々なのです。このマセガキめ!
お姉さんもそんなアオヤマくんのことを気に入っており、帰りが遅いアオヤマくんの父を待つために、カフェで二人チェスをしたりする日々を送っていました。
そんなある日、アオヤマくんの住む街で、珍妙な事件が発生します。
ペンギンが現れたのです。
動物園から逃げ出したのか、ペットが逃げ出したのか、街の誰もが頭を抱える中、アオヤマくんは友達のウチダくんと、謎のペンギンの調査を始めます。
ところが、とある夏の日、調査中のアオヤマくんを、彼のことをよく思わないいじめっ子たちが襲い、アオヤマくんを自販機に縛り付けてしまうのです。
そこを助けたのがお姉さんでした。
そして、お姉さんはアオヤマくんに「不思議な現象」を見せます。
お姉さんがコーラの缶を投げると、缶は空中でみるみるうちに姿が変わり、やがて生命を宿したペンギンに生まれ変わったのです。
お姉さんは呆然とするアオヤマくんにこう語り掛けます。
「この謎を解いてごらん。どうだ。君にはできるか?」
かくして、研究者アオヤマくんのひと夏の大冒険が始まるのです。
フジカワ的感想
僕は、この物語はSFとしても名作ですが、それ以上に美しすぎて切なすぎる、愛の物語だと思うのです。
唐突ですが、皆さんは小さい頃、歳の離れた異性の人を好きなったことはありませんか?
僕にはあります。きっとそんな人は多いと信じてる。
そして、大抵の場合その時初めて「切ない」という感情を知る。僕も大概マセガキだったようです。
お姉さんが生み出すペンギンの謎を追うにつれ、アオヤマくんはとある一つの「仮説」に突き当たります。そしてそれは、信じたくもない現実でもありました。
人生で初めて出会った理不尽で、どうしようもないこと。
その時人は、胸の痛みに、そして自分の本当の気持ちに気付くことがあります。
アオヤマくんは出会ってしまった、お姉さんの「問い」の「答え」に、どう向き合うのか。
そう、これはアオヤマくんの「ひと夏の成長記録」でもあるのです。
奇抜なSFなのに、衝撃の展開なのに、なぜか心のどこかに共感できる自分がいて、最後はアオヤマくんのことを、心から抱きしめたくなります。
それはきっと、僕らも人生のどこかで“アオヤマくん”と、同じ想いをしたからだと僕は思うのです。
お姉さんとペンギンの関係性、突如裏山に表れた謎の物体「海」、正体不明の生命体ジャバウォック、お姉さんの記憶の中の「海辺の街」、そして「世界の果て」。
それらが織り成す、壮大な世界の中を、ペンギンのように泳ぎ渡ると、全ての謎は一つに繋がった、まさしく「ペンギン・ハイウェイ」であったことに気付くのです。
そして最後に、アオヤマくんはきっと叶えるでしょう。彼の新たな夢を。
そしてお姉さんに伝えるでしょう。
胸いっぱいに秘めた、お姉さんへの想いを。全てを。
そんな日が彼の世界に来ることを、心の底から願いたくなるのです。
もし、このお話が気になったら、ぜひ読んでみてください。
きっとあなたにとって大切な一冊になることを約束します。
それでは今日はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ぐんない」。