「バベットの晩餐会」

心に残った映画は何?
その質問にM嬢は
笑顔を浮かべながら
「バベットの晩餐会」と
答えたのである。

「バベットの晩餐会」は
1987年に公開された
デンマークの映画である。
アカデミー外国賞を受賞、
日本でも上映されていた。

まったく知らなかったので、
DVDを購入したのだが、
何と日本語の字幕もなかった。
仕方なくブリクセン原作の
小説を読むことにした。

ノルウェーの田舎町、
ベアレヴォーに二人の
美しい老いた姉妹がいた。
その慎ましい家には
家政婦もいたのである。

家政婦はフランスから
亡命してきたバベット。
彼女は14年間も
無償で働いてきたが、
ある日一つの願いを申し出る。

それは二人の姉妹の父である
監督牧師の生誕百年記念日に、
自分の作るフランス料理を
集った人に振る舞いたいという
一見素朴なものだった。

バベットは晩餐会のために
フランスから食材を仕入れ、
素晴らしい料理をこしらえた。
彼女は有名な料理店の
腕の立つシェフだったのだ。

まずはウミガメのスープ。
パンケーキにキャビアを乗せた
ブリニのデミドフ風。
飲み物はアモンティラードに
ヴーヴクリコのシャンパン。

メインはカーユ・アン・
サルコファージュという、
ウズラの石棺風パイ詰めである。
ワインは極上のブルゴーニュ、
クロヴォージョが選ばれていた。

デザートはクグロフ型の
サフラン・ラム酒風味、
食後酒はシャンパーニュの
コニャックフィーヌという
高級フルコースだった。

僅か12名の来賓のために
1万フランをつぎ込んだ。
その価値がわかる人は
ほぼ一人だけというのに、
バベットは至福の時を得た。

「私は芸術家なんです」
それが彼女の答えだった。
全財産を投げ出すなど
芸術のためなら
何ら惜しむべくもない。

小説を読んで映画を見ると
フランス語字幕でもよくわかる。
美しい北欧と綺麗な老姉妹、
家政婦と素晴らしい料理。
料理は芸術なのだと、
改めて思い知った映画だった。