死んだ男の残したものは


谷川俊太郎さんが死んだ。
11月13日、享年92歳。
いつだったか、彼が自分の詩を
朗読したのを聴いたことがある。
かすれた声だったが力があり、
妙に感動したのを覚えている。
詩は朗読を聴くものだと思った。

谷川さんの詩で好きなものは
歌になっているものも多い。
「死んだ男の残したものは」は
1955年「ベトナム平和を願う会」で
谷川が詩を作り武満徹が曲を付けた。
バリトン歌手の友竹正則が初めて歌い、
その後多くの人が歌い続けている。

倍賞千恵子、鮫島有美子、石川セリ、
高石友也、小室等、カルメン・マキなど、
様々なジャンルの歌手が歌った。
林光さんが編曲して合唱曲となり、
東京混声合唱団のものが素晴らしく、
ボクはそれによってこの歌を知った。
かけがえのない平和を願う反戦歌だ。

歌の出だしは次の詩である。
♬死んだ男の残したものは
ひとりの妻とひとりの子ども
他には何も残さなかった
墓石ひとつ残さなかった♬
その後、「死んだ女」「死んだ子ども」
「死んだ兵士」と歌は続いていく。

♬死んだ彼らの残したものは
生きてる私 生きてるあなた
他には何も残っていない
他には何も残っていない♬
戦争は男も女も子どもも死なせ、
何もかも失わせてしまう。

最後は「歴史」で締めくくる。
♬死んだ歴史の残したものは
輝く今日と また来る明日
他には何も残っていない
他には何も残っていない♬
谷川さんは今の世も起きている
戦争を憂いで死んでいったのか。
でも「死んだあなたの残したものは」、
限りなく貴く意義のある詩です。