ヴァージニア・ウルフ

この歳になって英国の女流作家、
ヴァージニア・ウルフの作品を読んだ。
古本屋で『ダロウェイ夫人』を見つけ、
思わず買ってしまったからだった。

「ヴァージニア・ウルフなんか怖くない」
こんなタイトルの演劇や映画があったから、
何か恐ろしい小説なのかと思っていたら、
ロンドンの人間模様を描いたものだった。

1923年6月中旬の水曜日における、
朝から晩までのいろいろな人の心象模様を
丹念に克明に著した面白い小説だった。
まったく怖くなく狼とも関係がなかった。

政治家の妻となったクラリッサ・ダロウェイは
夫のために晩餐会を催すことにしたその日、
若い頃の恋人がインドから突然英国に戻り、
久しぶりに再会して二人の心は揺れ動く。

公園には第一次世界大戦で神経症になった夫と
彼を救おうと懸命になっている若い妻がいる。
医者は治療のために療養所に行かせようとするが、
自由を奪われると飛び降り自殺を図る。

パーティーは上流階級の人間で溢れ、
クラリッサはホステスとして活躍するも、
自殺した青年のことを自分と重ね合わせる。
生き続けるとは?死ぬこととは?

20世紀初頭のロンドンの上流階級の暮らし、
一般の人たちのファッションや風俗なども
小説の彩りになっているのも興味深い。
ロンドンは今も昔も大して変わっていない。

ヴァージニア・ウルフは今の我々にも
人間とはいかなる生き物なのかを問うてくる。
同性愛者でもあり、精神疾患もあって、
川に身投げして自らの命を絶った人は、
人間の心の底の深く暗い穴を見つめていたに違いない。