『牛をつないだ椿の木』

『新美南吉童話集*』の中でボクは
『牛をつないだ椿の木』が好きです。
なんだか、ほんわかとした
アニメ「日本昔話」のような
日本人の優しさが滲み出ているからです。

牛ひきの利助さんが牛を椿につなぎ、
人力ひきの海蔵さんが椿の根元に車を置く。
ふたりは清くて冷たくて美味しい
清水を飲みに山のなかに分け入っていく。
戻ってみると牛が椿の葉を食べてしまい、
利助さんがしかられて、海蔵さんも謝ります。

遠いところまで水を飲みに行ったからだと
海蔵さんは椿の所に井戸を掘ろうと思います。
そこを通る人たちは井戸があればと思いますが、
だれも海蔵さんを助ける人はいません。
海蔵さんは意を決して好きなお菓子もやめ、
倹約して井戸掘りのお金を貯めるのです。

ようやく井戸掘りのお金が貯まったのですが、
土地持ちが以前の牛が椿を食べたことを根に思い、
死ぬ間際だというのに井戸掘りを許しません。
死んでしまえば土地もちの息子が掘らしてくれると、
一時は人の死を願ってしまう海蔵さんですが、
年老いた母親から悪い心になったなと言われます。

胸をつかれた海蔵さんは大いに反省して、
再び土地持ちの老人の元を訪れます。
「私は悪い心を持ちました。謝りに来ました。
あなたはどうか死なないでください」。
老人は海蔵さんの人柄を知って井戸掘りを許可、
それどころか足りないお金も出すと言います。

こうしてできた椿の井戸は美味しい水が出ます。
村の人はもちろん、学校帰りの子供たちも飲みます。
海蔵さんが井戸を覗くと清水が湧いています。
「もう思い残すことはない。こんな小さな仕事だが、
人のためになることを残すことができたからのお」
海蔵さんの喜びはひとしおだったとさ。おしまい。

*ボクが読んだ『新美南吉童話集』はハルキ文庫(角川春樹事務所)のものです。巻末に谷川俊太郎さんが書かれた新美南吉の童話の魅力が愛情深くエッセイとなって掲載されています。こちらもぜひ!