FAUNE−牧神・半獣神
フランスの詩人、
ステファヌ・マラルメの代表作と言えば
「半獣神の午後 L’apres-midi d’un faune*」。
好色な半獣神が妖精ニンフを夢見て、
葦の笛を吹きながら幻想に浸る。
概意だけを知るだけなら
それほど難しいことはない。
しかし、マラルメの書いたこの詩は
言葉だけを訳しても理解できない。
比喩と暗喩に充ち満ちている。
最初は戯曲として著すが不採用、
次は詩として書き直して、
「現代高踏派詩集」に投稿するも、
編集のアナトール・フランスが
意味不明と掲載はされない。
しかしマラルメを支持する人たちにより、
エデュアール・マネが挿絵を描いて
「半獣神の午後」は詩集として刊行される。
最初は詩の音楽性の高さに評価が表れ、
徐々にマラルメの美的世界が理解される。
そしてクロード・ドビュッシーが
この詩に触発されて曲を創作する。
半獣神が奏でる葦の笛の音が
フリュートのけだるく低めの音となる
「牧神の午後への前奏曲」である。
エロティックで官能的なメロディが
ニジンスキーのバレエになるのだ。
振り付けだけでなくダンスも披露、
ニンフたちを誘惑しようとする。
最後は逃げられたニンフのヴェールで自慰!
半獣神は下半身に手を入れて
腰を痙攣させて絶頂を迎える。
セックスを露骨に表現したため、
超問題作となったバレエ作品となったが、
ドビュッシーの音楽が芸術性を高めていた。
しかも登場人物がすべて横向きで演じ、
エジプト絵画のような静寂な演出は斬新、
セルゲイ・ゲルギエフが主催する
バレエ・リュスの人気演目になった。
マラルメの美的世界はバレエによって昇華、
今でもはっと息を呑む永遠の芸術となったのだ。
*なぜにfauneがマラルメの詩では半獣神と訳され、ドビュッシーの前奏曲とバレエでは牧神と訳されるのかは、私は知らない。