句『曽根崎心中』其の参

近松門左衛門『曽根崎心中』、角田光代現代語訳を読んで

浮かんだ句らしき三回目、最後となる三十八句。

追い詰められた徳兵衛と逃げる、初の一途な恋の行く末は。

ふたりの熱い純愛に胸が痛む。


『曽根崎心中』京太郎作句 其の参


・左手で 震える右手 火を押さえ

・大きな手 大丈夫と 脛を撫で

・ともに死ぬ 不安はすべて なくなりぬ

*もう会えず 今宵が最後 なみだ雨

・運命って あるんやろか そんな人

・いるんかな 運命の人 そんな人

*運命で 結ばれる人 いるんかな

・運命の 人は前世の 縁の人

・運命の 人いるんやろ 前世の縁

・魂の 修業を終えて 浄土かな

*すぐわかる 今世で会える 恋の人

・幻の 如くに透ける 運命の

・幻の 薄間に消える 声ととも

・ふたりだけ ずっといられる あの世いい

・欲しがらぬ 何も欲しがらぬ 窮屈なし

・何ひとつ 欲しがらざれば 窮屈なし

・好きでない 男に抱かれる 哀しさよ

・行燈の 明かりのような ひとだまが

*漂うや 数えきれない ひとだまが

・かささぎが 織り姫橋を 渡らせる

・天の川 かささぎの 橋渡り

*空見あげ 叶わぬ恋に 涙する

・好きな人と はよ逃げなはれ 離れんよう

・目が合えば 小さく微笑む 愛ひとつ

・寂しいと 思えるものは しあわせもん

・怖いもの 大人になれば 増えるもの

・抱きしめる さみしいことを 知らん童

・この気持ち 喉に小骨が ひっかかる

・細い骨 こくりと唾を のみ込めば

・曾根崎の 暗い森が うっそうと

・曾根崎の 暗い森に ひとだまが

・嘘真 過去も未来も 遠ざかる

・ぼんやりと 光が灯る 行く先に

・ふわふわと 漂いながら ひとだまが

*ひとだまが こっちだよと 呼んでいる

・喉元に 握った両手 思い切り

*喉元に 握る剃刀 突き立てる

*帯解き 腹と腹とを くくりつけ


*は京太郎自画自賛句