『フレデリック』

その野ねずみは
ちょっと変わっていた。
その名はフレデリック*、
いつもぼんやりしていた。

冬が近づいてきて、
野ねずみたちは
食べ物を蓄えようと、
せっせと働いていた。

しかしフレデリックだけは
まったく働かなかった。
野ねずみたちがなぜと聞くと
「働いているよ」と答える。

「寒くて暗い冬の日のために
お日さまの光を集めてる」
「冬は灰色だから色を集めてる」
「眠ってない。言葉を集めてる」

冬が来て雪が降りはじめる。
石垣の間はとても暖かく、
野ねずみたちはお話をし、
食べ物もあって楽しかった。

しかしやがて食べ物が減り、
石垣の中は凍えるほど寒い。
誰も喋らなくなった。
あれ、フレデリックはどうした?

フレデリックはみんなに言った。
「目を瞑って。お日さまをあげる」
野ねずみたちはあったかくなってくる。
「色はどうなったの?」

再び目を閉じてみれば、
麦の黄色、赤いけしの実や
緑の葉などいろんな色が見える。
「じゃあ、言葉は?」

フレデリックは雄弁に語った。
それは4つの季節と
それぞれの野ねずみのこと。
野ねずみたちは言った。
「君って詩人じゃないか」


*絵本『フレデリック』はオランダの絵本作家、レオ=レオニが描き書いた可愛い名作。それを詩人の谷川俊太郎が訳した。好学社刊。