チェロと茨木のり子

茨木のり子さんの詩集を
ひとつ欲しいと思った。
「わたしが一番きれいだったとき」は
『見えない配達夫』に収められている。
戦争が終わった13年後に刊行された。
『自分の感受性くらい』の詩集は
1977年に出版されている。

ボクが手に入れたのは
『倚りかからず』という詩集だ。
筑摩書房から1999年に世に出た。
茨木さん73歳のときのもの。
「木は旅が好き」「疎開児童も」
「鄙ぶりの唄」「時代おくれ」など
老いた心境が面白悲しく描かれている。

表紙には木製の椅子とチェロ。
椅子の上には弓とハンカチ。
チェロは椅子に倚りかかっているよう。
「倚りかからず」の詩は
思想や宗教、学問、権威など
何ものにも倚りかからずに一人、
自立している女性の姿が伺える。

この詩の最後はこうだ。
「倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ」
となれば表紙のチェロは茨木さんか。
チェロのような人、
それが茨木さんなのか。

詩集『倚りかからず』を
ボクは声を出して読んだ。
背中に流れる音楽は
最後には指先の感覚を失った
ジャクリーヌ・デュ・プレの
「バッハ 無伴奏チェロ組曲」。
茨木さんの詩にぴったりと思った。