ルナール『博物誌』
何と孤独で皮肉で
哀切に満ちた文章だろう。
目に映る植物、動物、鳥、
魚、昆虫などを描いた
ジュール・ルナールの
『博物誌』の味わい。
『博物誌』と題されれば、
図鑑や図録を思い浮かべる。
しかしここに描かれたのは、
ルナールの特異な観察と
それにともなう思い出だ。
涼やかでやるせない回想。
僅か一文のものもある。
蝶「二つ折りの恋文が、
花の番地を探している」
螢「もう夜の九時、
あそこの家では、
まだ明かりがついている」。
挿絵はポスト印象派の
ピエール・ボナール。
黒インクで描いたような
素朴な質感のスケッチ。
文章が俳文的なら
絵は水墨画のようでもある。
68の短篇には65の生物、
最後は林の話で終わる。
「樹々の一家」の一家は
人間の家族ではない。
文字通り樹木の家族だ。
その樹々に身を寄せる私は
ようやく平穏を得られるのだ。