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夏越の大祓。パワハラを受けたトラウマを手放した日_小説家の「片づけ帖」Vol.42

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6月30日は「夏越の大祓なごしのおおはらえ」。
神社に設置された「茅の輪(ちのわ)」をくぐり、知らず知らずについた上半期分のけがれを落とす行事の日です。これにより、下半期の無病息災を祈ります。

今年は、大好きな本郷の「桜木神社」に寄らせていただきました。
とうのも、今年は出不精の自分を外に引っ張り出す名目として、神社への”お願い事”を片づける---つまり、意識的にお礼参りをしているのです。
「桜木神社」さんへもお礼参りが切っ掛けで、約10年ぶりに鳥居をくぐらせてもらいました。

https://note.com/hommaayako/n/nd9e2df013f3a

前回とは印象がガラリと違い、小鳥たちがさえずる木々の間をすり抜けてきた爽やかな風が私の全身を包み、手水舎に生けられた色とりどりのアジサイに心が躍る---!

さくらの紋がかわいい、手水舎

前回は薄暗くてどこか怖い印象を受けていたはずなのに……? 
ここではたと気づいたのです。そう感じる原因は私にあったのだと。

そもそも伺ったのが夕方だったことと、当時はパワハラを受けており、仕事があまりにも忙しくて1日に10分しか眠る時間をとれずに日帰りで九州方面への出張を月に何度も強いられているなどし、思考がまともに働いていなかったのです。

労働時間に対しては低すぎる報酬が入金されるのは3か月に1度で、その間は毎月かかる出張交通費を10万~20万円ほど立て替えていたので、お金もない。ストレス過食により体重が大幅に増加したり、元々の不眠症が完全に悪化していたこともあり、心身共に本当にツラい時期でした。その1年半ほどは正直、記憶がろくにありません。

その後、どうにもならなくなってその仕事から完全撤退したとたんに緊張の糸が切れ、フリーランスでありながら2か月ほど寝込んでしまいました。もちろんその間は仕事をストップしていたので、収入がほぼ途絶え、立て直すのにさらに数か月を要しました。

そんな最中に偶然立ち寄った桜木神社では、きっと
「助けてください! 小説を書く時間と環境を確保させてください」
と祈っていたはずです。

話を現在に戻すと、美しい手水を終えて桜木神社の茅の輪をくぐると、かやの清々しい香りに呼吸が深まり、3度くぐるうちに、脳裏をよぎった当時の断片的な記憶が自分から離れ、遠く、遠く、遠くに昇っていくようでした。

もう二度とこんなことを自分にしない! と固く誓ったことも含めてあの経験は私の大きな礎になっています。仕事の取り組み方や交渉に関して、価値観の基準を作る切っ掛けになったのですから。

そして、今お仕事でご一緒をさせてもらっている人たちもクライアントさんも、当時の組織や人物とは全く関連がないことを、ここであらためて書かせていただきますね。

さて、最後の茅の輪を抜けて本殿の前で手を合わせてお礼を伝え、前回の参拝から後のことを神様に報告しているときに、私はふと気が付いたのです。

「あの後、光文社さんから小説『桜の園』を上梓できました。そして今年、この町を舞台にした小説『本郷・二分間の絶景』を上梓できました」

「今は恵比寿に会社も設立し、仕事をしながら「湖面にたゆたう」という長編小説を書けています。何より、こんなに幸せな気持ちでここに来られるようになりました」

まったくの偶然だと笑われるかも知れませんが、「桜」と「本郷」の一致に、目が覚めるようでした。当時も私は一人ではなかったし、見守らていたのだとしみじみ感じられたのです。

心から抜けた当時の感触の分だけ、あたたかい光が宿ったような気分です。

なので、もうパワハラに遭っていた時の話を自分からするのは、基本的に止めますね。全てを前向きに捉えられたとか、そうしようと意識しているとか、そういう次元ではなく、「手放した」という実感とともに「もう話すこともないだろうな」と穏やかに確信しているのです。

もしかすると「赦す」ということは、この感覚を言うのかも知れません。

■「文子あやこ天満宮」と出会った

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