デジャビュよりも強烈な、不思議体験。私にとって『オテロ』が特別なオペラであるゆえん_2017年4月13日
■半醒半睡のまま録音したアリア
「まさか、こんな偶然があるなんて--⁉」
ヴェルディによるオペラ『オテロ』の第4幕。主役であるデズデーモナが歌う「柳の歌」というアリアを聴いた瞬間、私は耳を疑いました。
個人的な話になりますが、デジャビュよりも強烈な不思議な体験をしたのです。
デジャビュとは、初めて見聞きするはずの光景に対して「かつて同じ経験をした」「夢で見たものと同じだ」と強い懐かしさを抱く、既視感のことです。
私は「柳の歌」を聴きながら、全身に震えが止まりませんでした。
「夢で聴いた曲だ」と。そして、「忘れないようにと、半醒半睡のまま、録音した曲だ」と。
話はさらに1年ほど前、まだ自分がオペラを好きだと分かる直前まで遡ります。
私はその日、睡眠中に見た夢であまりにも美しい曲を聴いたので、「目覚めても忘れたくない」と、寝ぼけながら歌ってiPhoneで録音しました。
その曲が「柳の歌」とそっくりなのです。
ボイスメモには今も、「夢で聞いた美しい音楽」というタイトルで2016年7月24日の拙い歌声が残っています。
「本当はこうじゃない。どうしても聞いたまま再現できない! もっと前後が長く、もっと美しいメロディなのに!」。強いもどかしさを覚えながら、吸い込まれるように再び寝てしまったことを今も明確に覚えています。
そして現在、ボイスメモを聞き直してみても、やはり同じもどかしさに包まれます。一方CDなどで「柳の歌」を聞くと、初めて劇場で聞いたときと同じ「これ、これ!」という言い様もない懐かしさに、ただ涙が溢れます。
無意識にどこかで聞いていたのだと思いますし、正確に再現できないことも含めて”脳の錯覚”であると言われれば、それも正しいような気がします。いずれにせよ、この極めて個人的な理由から『オテロ』は私にとって特別なオペラとなりました。
■ヴェルディが7年の歳月をかけて作曲したオペラ
『オテロ』 は、シェイクスピアの名作『オセロ』 に、晩年のヴェルディが7年の歳月をかけて作曲したイタリア・オペラ。
”テノールの難役”といわれるオテロの、幅広い感情は聞き応えがありましたし、やわらかく広がる合唱の響きや、仰向けに横たわったままであるにも関わらず劇場の隅々まで響くソプラノ、ドレスの裾や舞台に映る水の揺らぎなど、ほんとうに美しくて、うっとり。
ずっと全身を浸していたいオペラです。
指揮:パオロ・カリニャーリ