【連載小説】湖面にたゆたう(島田荘司「丘の上」の続編)⑯
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■第三章
友子は高校時代、学校帰りに週二~三日ほど、地元である清澄白河のカフェでアルバイトをしていた。オーナー夫妻こだわりのロールケーキとオムライスが人気のこじんまりした店で、白を基調としたシンプルな店内には観葉植物が溢れている。常連客のほとんどが近隣で働く人や住民たちだった。客と店員が親しく話し込むタイプの店ではなかったが、それでも挨拶がてら何かしらの雑談をするのが常だった。
友子が高校2年生の秋頃から所属することとなる、小津企画という芸能事務所を紹介してくれたのは、ある常連客の女性だった。五〇歳代と見受けられる彼女は小津社長の姉だそうで、「うちの弟は小さな芸能事務所を経営しているのよ」と話してくれた。そして次の来店時には、春の彼岸で線香を上げに帰ったという、小津社長本人と連れだって来店した。恰幅がよくはつらつとした姉に対して、弟はひょろりとしており、華奢な銀縁眼鏡の奥で目を細めながら、穏やかに挨拶をしてくれた。
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