インド最大のターメリック産地の市場から(前編)
9月15日から17日にかけて、インドのムンバイで開催されたWorld Spice Congress(世界スパイス会議)。怒涛の3日間が終了した翌日、展示ブースをまわっていた際に声をかけてくれた「S. R. International」のネイバルさんが、「ぜひうちのオフィスに遊びにきて!」と言ってくれたので、早速翌日にナヴィムンバイのオフィスにお邪魔することにしました。
ナヴィムンバイは、新ボンベイとも言われるムンバイの衛星都市。工業地帯もあり、ムンバイをベースにしている企業には、ここに製造工場を設けているところも少なくありません。ネイバルさんたちは、APMC(農作物市場委員会)に所属し、その敷地にオフィスを構えています。
APMCは、農家が大手小売業者に搾取されないように保証するために、また農家から小売までの価格差が過度に広がらないために、州政府によって設立された市場委員会です。APMCに加入するということは、信頼を得るための一つの選択肢でもあります。
ネイバルさんは3代目で、まだ現役のお父さんとスパイスの輸出業をしています。創設者にあたるおじいさんはパンジャーブ州出身ですが、マジョリティのシク教徒ではなく、ヒンドゥー教徒でした。元々のビジネスはセロリシードの販売から始まったそうで、過去にはパキスタン側のパンジャブ人との取引もあったそうですが、現在は政府の規制で輸出ができなくなってしまったそうです。
「我々はシードスパイスはラジャスタン州やグジャラート州から、ターメリックはマハーラーシュトラ州、カルダモンはケララ州からなど、顧客の需要に応じて各地の産地から取り寄せて、ミックスコンテナで輸出しているんだ。このオールスパイスはメキシコから。あらゆるニーズに対応してるよ。」
そう言って、さまざまなスパイスのサンプルを見せてくれました。取引先は、ドバイやベトナム、香港などで、時にはお米も輸出をしているようでした。APMCに小さな倉庫はあるものの、これらの輸出に耐えられる大きさではないな、と思っていたら、ムンバイの南にあるナヴァ・シヴァという貿易港にドックがあり、エージェンシーを通じて買い付けたスパイスはそこに一気に送られ、発送されているのだそうです。
確かに、地理的にも経済的にも、ムンバイはスパイスの貿易港にうってつけの場所でしょう。ケララ州のコーチも貿易港としては未だ大きな存在感を放っていますが、特にマハーラーシュトラ州はターメリックの一大産地になったこともあり、その役割は増してきているかもしれません。
ネイバルさんたちも、ターメリックはマハーラーシュトラ州で生産されたものを買付していると言います。エージェントが「マンディ」という公設市場でオークションで競り落としたものを、クリーニングやソーティング、グレーディングした状態で、輸出港に輸送しているのだそうです。
そこで私はネイバルさんにお願いして、ターメリック・マンディに連れて行ってもらうことにしました。と言っても、ターメリックの収穫の最盛期は3月から4月にかけてなので、現在はシーズンオフ。取引されている量は少ないことが想定されました。さらに、マハーラーシュトラ州では9月19日から1週間「ガネーシュ・チャトゥルティ」というヒンドゥー教のお祭りがあり、そのために多くの企業や農家が休みを取るというのです。果たして、オークションは見れるのか?そして、マンディに出品しにくる農家に会えるのか…?
ムンバイのチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅(CST)でネイバルさんと待ち合わせて、夜行列車で12時間、早朝にターメリック・マンディのあるナンデードという街にやってきました。すぐに目に入ってきたのは、頭にターバンを巻いた男性たち。ハズル・サーヒブやマタ サーヒブというシク教の寺院(グルドワラ)が存在するからです。
マンディのオークションは11時から14時の間で行われるというので、先にネイバルさんの取引先のターメリックサプライヤーであるジャイプラカシュさんのオフィスにお伺いしてお話を伺うことにしました。
ジャイプラカシュさんの仕入れたターメリックは、大手はインド料理好きにはお馴染みのMDHの製品にも使われているそうです。1950年の創業時は穀物や豆類、スパイスを販売する小規模な卸売事業だったそうですが、ターメリックを中核事業においたことで、大手メーカーと取引するほどの規模に成長したそうです。
World Spice Congressでは、今年水不足によりターメリックの不作が懸念されているというトピックがありました。そこで、ジャイプラカシュさんにも状況をお聞きしてみました。
「あなたのいう通り、今年はここマハーラーシュトラ州は水不足で多くのターメリック農家が影響を受けている。それにより収穫量が減るという懸念から、農家が農薬の使用料を増やしているんだ。」
水不足が農薬の使用量を増加させるというのは予想外のことでしたが、農家の立場で考えると、害虫を防いで少しでも収入を安定させるために、農薬を使ってしまうという気持ちもわからなくはないな、と感じました。来年にはターメリックの価格が2倍にもなると予測されていて、既にインド国外からの輸入の準備を進めているスパイス企業もいるといいます。
次にジャイプラカシュさんは、ターメリックのローマテリアルのサンプルを見せてくれました。種類は大きく分けて2つ。「フィンガー」という指のような細長い形のものと、「バルブ」という丸い形のものがあります。そのうち、主に日本に輸出されているのは、フィンガーの中でも5cm〜7cmの長さのハイクオリティのものだそうです。では、ハイクオリティとは一体どんなターメリックを指すのか?
「全体的にクルクミンの含有量が多いものがクオリティが高いとされる。特に、こんなふうにラインが多く入っているものは比較的その傾向が強いんだ。でも一番重要なのはカットして中身をチェックすること。断面が全体的に黄色いものが、含油量とクルクミンが多いんだ。ほら、これは断面が黄色くて、香りが強いだろう?これはファーストクオリティのターメリックで、1kgあたり210ルピーするけれど、クルクミンの含有量は3.5〜4.5%もある。もう一つの方は、1kgあたり150ルピーと安価だけど、クルクミンは2%と低いんだ。」
そう言われて実際に2つのターメリックを嗅ぎ比べてみると、ファーストクオリティの方がダントツ香りが強いと感じました。
そもそもクルクミンとは、黄色のポリフェノール色素で、抗菌作用や炎症抑制作用、抗酸化作用、抗ガン作用という健康効果があるとされています。その含有量が多いターメリックはインドでは古来から「くすり」とされあらゆる料理に重宝されてきましたが、今では世界中でその効能が注目され、インドからの輸出量は上昇を続けています。
マンディで取り扱いされているターメリックの多くは、農家が収穫後にボイルし、天日で乾燥させ、1時間ドラムにかけてポリッシュした状態のもので、ファーストクオリティのものは同様の処理がされていました。これらの加工を経て、生の状態のターメリックに対して、25%の重量になるのだそうです。中には、ポリッシュ前で販売されているものもあるそうで、彼が買い付けた皮がついた状態のサンプルも拝見しました。いずれの場合も、ジャイプラカシュさんの工場でも再度ポリッシャーにかけて不純物を取り除き、加工をしています。
そんなお話を伺っている間に、取引が開始される時間になったので、ジャイプラカシュさんのオフィスから数分の場所にあるマンディに向かうことに!
長くなってしまったので、続きはこちらの後編でお楽しみください🙏