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徒然草 知らない夜の世界
私が、S県T市の比較的大きな建設現場で働いていたときのお話です。
そこは、街並みは歴史を活かしてきれいに整備されてはいましたが、山間部に近い田舎でした。
その地区から都会へは、だいぶ時間がかかるため、都会に出ることはほとんどありませんでした。そのため、同僚らの楽しみといえば、飲むことだけといっても過言ではありませんでした。
必ず月1回は飲み会でした。1次会の後は、2次会へと続くことがほとんどでした。
その建設所では、私が一番のしたっぱでしたので、同僚の様子を見ながら、帰宅するか、どの2次会についてゆくか判断せねばなりませんでした。
少し年上の先輩方は、2次会は女性がおもてなしして下さるお店に行かれることもあり、こちらを見ながらこそこそと話しているときは、必ず近寄らないようにしていました。
ある日、若い先輩方との飲み会に参加したときのことです。2次会は、女性のお店に向かうだろうと早々に立ち去ろうとしたら、呼び止められました。
「お前に、俺たちがどれだけモテるか見せてやるからついてこい」
一次会が終了する頃には、彼らは概ねただの酔っぱらいです。言い出したら聞きません。ある程度は信頼のおける人が一人でも同行してくれるのであれば、付いていかざるを得ません。
あー、興味ないのになぁ、しゃーねーなぁ、と思いつつ、同行しました。当時の私は、ルーキーのくせに、先輩を立てるということを全く知らなかったため、参考になる実例を見せてくれようとしたのかも知れません。
そうして、幽霊でも出そうな歴史ある街並みの中を通り抜け、市役所にほど近いところにポツンとあるキャバクラに向かいました。
キャバクラの中は、外の街と売って変わって、チャラチャラギラギラしていました。
先輩たちの一番後ろからおずおずと店の暖簾をくぐった途端、ホステスさんたちの歓声が響きました。
「わー!! 女の子だー!! 女の子なんて、めずらしー!!」
あっという間に私のところに群がって、おもてなし(?)をしてくれました。
「この人たちとはどういう関係なのー?」
「どこ出身なのー?」
「休みの日は、なにしてんのー?」
色んな質問攻めに遭い、オロオロする中、ふと気になって先輩たちをチロりと伺うと、女性にあまり興味がないとお見受けする先輩数名は勝手に自分たちだけでやっていましたが、ほとんどがふてくされていました。
私は、内心まずいことになったと感じながら、ずっと冷や汗をかいていました。
何時間そこにいたのかは分かりませんが、お開きの時間がきたのでしょう。
ホステスさんたちが、自分たちのタクシーを呼ぶようオーナーにお願いし始めました。
私は、ようやく解放される、とホッとしたとき、リーダー格のホステスさんが私の左手に割りばしの袋を折ったものをそっとねじ込んできたのです。
ん?と思った私は開いて見てみると、携帯電話の番号が書いてありました。
「休みの日には電話してね。一緒に遊ぼうね。私たちが、車で迎えにいくから」
「ありがとうございます…」
そして、私たちは店を出ました。
ホステスさんの、
「またくるときは、◯(私の名)ちゃん、必ずつれてきてねー!」
という声に見送られながら。
先輩たちと歩いて宿舎へと帰る中、案の定、怒られました。
「お前が一番モテてて、俺らはつまらんやったやないかー! お前は、もう連れてかんからなー!」
もーいいよー、とは口にしなかったものの、爽やかな気持ちで帰宅しました。
あれから、一度も先輩たちにキャバクラに誘われたことはありませんし、ホステスさんに電話もかけることは一度もなく、私はその地を去りました。
あの日のホステスさんたちは、誰にも媚びなくてよい日で、楽だったにちがいない、と未だに思い出します。
ホステスという職業は、私は男性が好きだからしていると思っていたのですが、むしろ逆か、もしくは、好きでも嫌いでもないからできる仕事だということです。
ホステスさんは、ご自身が商売の道具です。その話術であったり、外見の綺麗さを見せるとことで、代価を得ています。仕事をする中で、何か特別な感情を持つことがあっては、決して仕事にならないのだと彼女らから教わりました。
当時の私の仕事でいうと、建造物を提供する、という仕事です。この建造物を建てるためには、土地の持ち主等との交渉もありますが、そこで、焦りだったり、相手に寄り添わない対応だったりすると、交渉は決裂することだってありました。
結局、先輩たちにどう対処していたかは分かりませんが、少なくともモテてると勘違いさせて、良い気分にさせていたのは、さすがプロ、と感服してしまいます。
無論、ホステスさんのお仕事は、愛想が全くなく、作ろうとしてもぎこちなくしか作れない私にとって、極めて向かない仕事です。
提供するものが少し違うだけで、提供するものにはできる限り最高のものを提供すること、仕事の都合で一時的に出会う人には、淡々と深い感情なく接する、ということではどの仕事にも形態が違うだけで似てるのかもしれない、と思ったりします。
※本記事に記載した事柄は、あくまでも私が経験したことであり、当然ながら全てがということではありません。
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