HOKUTO 9×9

土木技師。地球の環境を持続できる土木のあり方、農業や食等について学びながら、衣食住をとおした創作活動にも励んでいる。noteでは、『#ここで飲むしあわせ』の審査員特別賞他、受賞。本サイト内のマンガやイラストは、HOKUTO 9×9のきょうだい、AMOによる。週1回程度更新。

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土木技師。地球の環境を持続できる土木のあり方、農業や食等について学びながら、衣食住をとおした創作活動にも励んでいる。noteでは、『#ここで飲むしあわせ』の審査員特別賞他、受賞。本サイト内のマンガやイラストは、HOKUTO 9×9のきょうだい、AMOによる。週1回程度更新。

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闇の中の光

私にとって、最も理想的にお酒をたしなんでいる様子が描かれている小説は「夜は短し歩けよ乙女」という、森見登美彦さんの作品である。 この小説は有名なので、ご存知の方も多いと思うが、簡単に紹介すると、黒髪の乙女と彼女に恋する大学のサークルの先輩との、偶然に装われた度々の奇遇の出会いを軸に摩訶不思議な物語が展開する、京都を舞台にした冒険活劇である。 黒髪の乙女という主人公は、変態オジサンに会おうとも、突然演劇の主役を任されようとも、街中に風邪が蔓延しようとも飄々と楽しげに切り抜け

    • スープの中の動的平衡

      私の憧れの職業のひとつは、カフェのマスターだ。 サイフォンでコポコポとコーヒーをいれ、お客さんと他愛もない話をして過ごすのだ。 そして、お客さんがいないときはエンジの分厚い本、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』をめくりながらコーヒーを飲む。そうしたら、本の中に入っちゃったりするかも知れない。 なんて、現実の世界に疲れると、そんなことを想像する。 始めるのは簡単だけど、継続するのが難しいと、以前出会ったカフェのマスターは、カフェをオープンした経緯を語りながら、そんなことを

      • 朝日にリッツクラッカー

        先月(8月)はなんだか変な月だった。 猛烈に暑いだけではなかった。マスコミが地震や台風による被害発生の恐れを煽っていた。 自然災害に対応しなければならない立場の私は、自信がないなりに、本当のところの分析はしていた。だけど、見えない影が私に張り付いているようで、ずっと落ち着かなかった。 頭の中は、始終Mr.Childrenの『フェイク』が鳴りっぱなしだった。 先月あったことをここに記すことは控えたい。 ただ、ひとつ、『令和の米騒動』については、間接的に農業に関わる者として大事な

        • エイサーの音

          縁もゆかりもない土地だが、私の本当の故郷は沖縄ではないかと思ったりする。 私は、沖縄とは全然違う、工業都市で育った。 生産性や利益が最優先で、伝統や文化というものが完全に喪失してしまったような街だった。 そんな街に、毎年沖縄がやって来た。 夏休みのはじめくらいになると、近所のデパートで、沖縄展が開催されていたのだ。 それにあわせてデパート前の広場では、イベントも催された。そこで、小学生から高校生くらいの少年少女で構成されているエイサー隊の演舞や、沖縄のミュージシャンたちによ

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          地を這う

          老いてあの世に還ってゆく過程には、共通点があるということを教えてくれたのは、祖父母や愛犬の死だった。 最初に自分の足で歩けなくなった。その後、食べるという生命の維持に最も必要な活動が完全に止まった。 彼らは生命の流れの過程の中のひとつとして、抗えない、その流れを止める死があるということを教えてくれた。 死は怖いと思っていたけれど、生命の水が少しずつ枯れてゆくような、静かな変化にすぎないように、今では感じている。 だから私は、どんなものであれ、食べるという行為を継続している限り

          わたしの登場曲

          私は、パンデミックが起きた2020年に、noteを始めました。 その間、私の仕事が通常運転に戻る、昨年の春くらいまで、なんだかすっごく長く、大袈裟ですが何十年も経過したような気がします。 そのたった数年で、私の人生は目まぐるしく変化して、ある意味で大きな節目となりました。 生まれてから、良かったことも、悪かったこともいっぱいあったけれど、過去の全てがよい思い出となった気がします。それは、新たにもう一度、生まれ変わったような感覚に近いと思います。 noteの方々との出会いも、

          わたしの登場曲

          金の龍を背に乗せて

          かつて会社の同僚の中に、河川や地下水の水みちが描く軌跡のことを、龍脈と呼んでいた人がいた。 だいぶベテランだったその人は、その地域特有の地形や龍脈の良し悪しを読み取っていたように思う。 一直線に流れ落ちる滝、河川のうねり、そして隙間をぬって走る地下水脈は、まさに龍の名にふさわしい。 水の土木屋である私は、その龍脈を流れる水を拝借させてもらい、その水を必要とする農家の人へ届けている。 だからおこがましいかもしれないが、ドラマの『Dr.コトー診療所』の主題歌である、中島みゆきさ

          金の龍を背に乗せて

          ヒンメルストラッセ

          サン=テグジュペリの『星の王子さま』の中で、私が最も好きな箇所は冒頭の献辞だ。 そこには、レオン・ウエルトというユダヤ人に本書を贈る理由がこう書かれている。 『そのおとなの人は、むかし、いちどは子どもだったのだから、わたしは、その子どもに、この本をささげたいと思う。おとなは、だれも、はじめは子どもだった。(しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない。)』 私がほんの小さな子どもだった頃、初めてその言葉に触れた瞬間、癒しとも安心とも、衝撃ともつかぬ奇妙な感覚に襲われ

          ヒンメルストラッセ

          学者の暴走を止める方法

          イーロン・マスクにX(旧twitter)が買収されて以来、様々な人の投稿を見るようになった。 立派な経歴を持った著名な学者の投稿もあって、結構、勉強になる。 ただ見ていて不思議に感じるのが、多くの学者が右か左かに思考に傾倒しており、それぞれが持つ長所と短所を科学的に論証した上で、提示できる人がほとんどいないことだ。 そして、最近よく目につく投稿と言えば、例えば左の意見の学者が、同じく左側の学者と、言った言わない、理論が間違っていると叩き合っていたりする。 私は、その学者らの

          学者の暴走を止める方法

          仕事に王道なし

          私は、仕事の要領がかなり悪い。 人よりも物事を理解するのに、倍かかるからだと思う。 その分、人の倍苦労し、努力していると私は自負しているが、周囲はいつも飄々としてると言う。 この血もにじみ、血反吐も吹き出さんばかりの苦労を同僚にいかに知らしめてやろうかと、策を練ったことがある。 でも、バカバカしくなってやめた。 どうやっても分かり合えない人も、もちろんたくさんいるけれど、私を気に入って、頼りにしてくれる人も同じくらいいる。 だから、苦労が出ないのは長所で、仕事をうまく回転させ

          仕事に王道なし

          月の夜に黄金の花

          私の今までの会社人生の中で、最高のメンバーに囲まれていたと感じる時期は、一回だけある。 それは、会社に入社して一年目から二年目までのことだ。 当時私が所属していた山奥の建設現場では、大規模な地すべりが発生していた。 その対策工事に加え、一般の建設工事も重なり、ある意味では黄金期を迎えていた。そのため、全国各地の様々な会社から、最強のプロフェッショナルたちが集結していた。 これ以上のメンバーが集まることは、これからの私の会社人生ではきっともうない。それくらい、彼らの知識と、技

          月の夜に黄金の花

          あをによし

          祖父のことを思い出さない日はない。 破天荒で、頭がよく、意地の悪い、とんでもないじいさんで、名言の数々を遺した。 だから、どこかで祖父が言い放った言葉がふっと出てきてしまう。 最も強烈な記憶として残っているのが、亡くなる間近のことで、救急病院の集中治療室での傍若無人な祖父の言葉だ。 祖父のところに家族で見舞いに行ったら、祖父は私にチャーター機を病院の前に着けて、沖縄に連れて行ってくれという。 沖縄好きだった祖父は、何度も沖縄の地を踏んだ。 その旅行のうちの最後の一回は、私

          あをによし

          君たちはどう生きるか

          私の仕事は、年度末が繁忙期になる。 だから、ちょうど今、山のように仕事が積み重なっている。 以前は、血反吐をはきそうと思いながら、すごい勢いで働いていたけれど、終わらせることができるという妙な自信がある今は、緩急つけて、のらりくらりこなしている。 とはいっても、設計方針が急に変わることもあったりして、ドタバタしている。 先日は、できあがった設計の見直しをしていたら、重大なミスを発見した。焦ったその瞬間、コップを倒し、机の上をお茶びたしにしてしまった。 慌てるほど、負のスパイ

          君たちはどう生きるか

          農業ノススメ

          前回、能登半島での地震とそこに住む農家だった祖母、そして会社の同僚、ピコ太郎について記した。 今回は、その続きから記そうと思う。 地震の影響が少しは収まっているのを見計らって、先々週(1月末)、祖母の施設職員の皆さんと、祖母に宛ててお菓子を送った。 実は祖母には、パンデミックから会えておらず、LINEのビデオ通話でずっと面会している。 昨年の暮れ、祖母と画面上で会った時、施設の方からいただいたという飴を、嬉しそうに見せてくれた。それが脳裏にこびりついていて、飴も何種類か同

          農業ノススメ

          身土不二

          私の祖母は、生まれた時から、ずっと今まで石川県の能登半島に住んでいる。しかも、ほとんどそこから出たことがない。 昔の日本人は、住んでいる土地と、人は切り離すことができないという、身土不二と呼ばれる仏教的な思想があったというが、それに近い生き方を農家であった祖母は、意図せず実践していたのかもしれない。 数年前の冬、突き刺すほどの寒い日に、独り暮らしだった祖母は、自宅で倒れて動けなくなり、低体温症になっているところを発見された。 その後、救急病院で手術を受け、一命をとりとめたも

          酒仙人

          かつて、会社の上司だった人は「俺たちは、文字どおりの水商売だからな」と、よく私に言っていた。 水商売とは、まるで水のように、収入が安定しない仕事のことを意味するそうだが、私たちのそれは、家庭の上水、工業用水、農業用水等の水を送るための施設を造ったり、改築したりすることなので、間接的ではあるものの、確かに、文字どおり水を商売にしていると納得した。 そして、その言葉いいな、と思った。 一般的に、土木屋は、酒好きが多い。 だから、飲み会の時は、三国志のリアル張飛が大勢集まったよう