かいたものが本物になる夢のえんぴつ 『トッパーのえんぴつ』
今回紹介するお話はデンマークの児童書『トッパーのえんぴつ』。
このお話は、私が初めて読んだデンマークの児童文学として思い入れが深く、初めてnoteで紹介するのにぴったりの作品かなと思いました。
『トッパーのえんぴつ』作品紹介
書誌情報
『トッパーのえんぴつ』(邦訳1972)
オーレ・ロン・キアケゴー 作・絵
岡崎晋 訳
国:デンマーク
デンマーク語版の書誌情報は以下の通りです。
Otto er et næsehorn(1972)
Ole Lund Kirkegaard
アニメ映画化もされた作品です。
オーレ・ロン・キアケゴーって誰?
オーレ・ロン・キアケゴーをご存じでしょうか?
あの、デンマークを代表する童話の王さまアンデルセンになぞらえて、
デンマークでは「第二のアンデルセン」と呼ばれるほど人気の作家なんです。
オーレ・ロン・キアケゴー(1940~1979)は、
デンマークの児童文学界に革命を起こしたデンマーク児童文学作家のひとり。
教員だったキアケゴーは、『ビアギル三人組』で1967年にデビュー。
子どもの声を作品に取り入れた作品を次々と生み出します。
しかし、作品作りに専念するために教壇を下りた結果、
過度のプレッシャーとストレスからアルコールに溺れ
なんと39歳の若さで亡くなります。
福祉大国として知られる国で、ファンタジーを書く作家が雪に埋もれ、
誰にも看取られずに亡くなるなんて、到底信じがたい話ですが…
彼が執筆した15冊の子どものための作品は一貫して、
生きる強さや不公平、
権力を行使する悪者たちに立ち向かう子どもたちが描かれています。
その独創性は今でも色あせることなく
世代や国境を越えて、
また映画やミュージカルとしても愛されているのです。
日本語に訳されている作品もいくつかありますので、
また追ってご紹介したいなと思っています。
あらすじ
前置きが長くなりましたが、ようやく?あらすじです笑
なんで画像がサイなの?という疑問にもようやくここでお答えできるでしょう。
お世辞にもかっこよくはない見た目のやんちゃな少年トッパーは、集合住宅の三階にお母さんと一緒に住んでいます。
一階はライアンさんのお店、カフェうみねこ。
二階は耳の遠いおばあちゃん、フロラ夫人がおいしいコーヒーを淹れています。
ある日トッパーは、かいたものが本物になるえんぴつを拾います。
友だちのビゴーと一緒に、家の壁にサイの絵をかいてみると、
何と本物のサイが壁から出て来てしまいました。
男の子たちにオットーと名付けられた大きなサイは、
お腹がすいているのか家の中の物をむしゃむしゃ食べ、大暴れ。
二人は集合住宅の管理人のホルムさんと一緒にえさ探しに走り回りますが、
他の大人たちはオットーを追い出そうとあらゆる手を尽くします。
警察署長さんや消防士たちも飛んできますが、
大きなオットーの体重に耐え切れず、とうとう床が抜けてしまい、
3階にいたオットーは1階まで落ちて行ってしまいます。
愛らしい、けれどもカオスなサイを受け入れる子どもたちと、
カオスを許容できない頭の固い大人たち。
最後に勝つのはどちらでしょうか。
感想 どっちが幸せ?
このお話の中で幸せな世界を生きているのは、
大人でしょうか。子どもでしょうか。
私たちはともすれば、「そういうもんだから」と
自分の物差しで物事の善悪を決めていることが多いんだろうな、
と気づかされた作品です。
もし、当たり前なものが、当たり前でない世界があったら?
今「良い物」と信じて疑わない価値観が、ない世界があったら?
その世界がわるい世界だと必ずしも言えないですよね。
『トッパーのえんぴつ』に登場する大人たちは私たちなのかもしれません。
いつも固執している価値観があるけど、なんでそれにこだわっているの?
それにこだわらない方が、かえって幸せなんじゃない?
相手を受け入れる、少しの器の広さややさしさで、
世界を良くする新しい可能性が生まれるかもしれませんね。
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