身体的認知について
身体化認知(embodied cognition)とは、認知が身体や身体の相互作用に深く根ざしているという考え方です。つまり、知覚、思考、感情などの認知プロセスは、単に脳内だけで行われるのではなく、身体的体験や身体の状態、そして身体が環境とどのように相互作用するかによって大きく影響を受けるということです。
身体化認知の主な考え方は以下の通りです。
知覚と行為は密接に結びついている
知覚は単なる受け身的なプロセスではなく、身体の行為や環境との相互作用に基づいて構築される。概念的知識は体験的に形成される
抽象的な概念さえも、身体的な体験(例:上下や温かさなど)に基づいて形成される。身体状態は認知に影響を与える
身体の姿勢や感情状態が、思考や判断に影響を及ぼす。外部環境が認知を拡張する
身体は環境と相互作用し、その中で認知が拡張される。
身体化認知の実験的証拠としては、以下のようなものがあります。
身体の動きに合わせて知覚が変化する(例:視覚錯覚)
温かい物体を触ると他者への感情が高まる
笑顔を作ると前頭葉が活性化し快情動が高まる
手が使えないと空間認知が損なわれる
このように、身体は認知にとって決して無関係ではなく、密接に関係していることがわかってきました。身体化認知の考え方は、人工知能や人間理解、教育指導法の改善など、様々な分野での応用が期待されています。
従来の認知科学は、心は身体から独立した情報処理システムであると考えがちでした。しかし、身体化認知の視点からは、身体と環境との相互作用が認知の重要な側面となります。
【身体化認知が重視する点】
身体的体験の役割
身体を動かすこと、感覚入力を得ること、環境と相互作用することが、認知形成に不可欠。状況的文脈の重要性
認知は身体が置かれた具体的な状況や文脈に大きく影響を受ける。身体的メタファーの作用
抽象概念も身体的なメタファー(例:愛は温かい)から形成される。身体的制約の影響
身体能力の制約(例:視覚障害)が認知の仕方に影響する。身体的手がかりの役割
ジェスチャーなどの身体的手がかりが、思考や理解を促進する。
このように、認知は脳内の計算だけでなく、身体性や環境との相互作用によって形づくられるという考え方です。
【身体化認知の応用分野】
教育分野:体験的・具体的な学習の重視
HCI分野:身体的インタフェースの開発
リハビリ分野:身体性を取り入れた認知介入
人工知能:身体性を取り入れたロボット開発など
人間の認知メカニズムを理解する上で、身体と環境の側面を無視できないことが明らかになってきました。今後、この考え方は様々な分野で活用が進むと考えられています。
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