読書日記その555 「謎の独立国家ソマリランド」
10年くらいまえ、ノンフィクションの本でおもしろい本はないかとネットで検索したら、旅・紀行もののオススメで本書があった。とりあえず購入してみたものの、そもそもソマリランドに興味はなく、また500ページという分厚さに負けて、本棚にしまったままずっと放ったらかしにしていた。
しかし普段の読書生活においてノンフィクションを好んでいると、いやでも著者である高野秀行氏の名は目に入ってくる。誰も行かないような辺境へ足を突っこみ、誰も体験したことのないような境遇におちいり、最後は現地人と化して日本に帰ってくるという。どんだけストロンガーなんじゃッ。
それもあってずっと気にはなっていたのだが、なんだろ、ついついあとまわしにしたまま10年の時が流れ、ついに今回、本書を手にして読むことにした。10年か……ワインじゃあるまいし、どんだけ熟成させんねんッ。
さて、本書の旅先はソマリランド共和国である。ソマリアは聞いたことあるけど、ソマリランドって? そもそもソマリアとソマリランドってなんか違うの?? と疑問がつぎつぎと湧いてくる。
どうやらソマリランドはソマリア共和国内の一角にある国際非公認の独立国だそうだ。ソマリアというと海賊でも有名で、世界の国ぐにのなかでも極めて危険な国、著者いわく「リアル北斗の拳」といわれる国である。
そんな紛争だらけの国にもかかわらず、ソマリランドだけが民主化に成功し、不思議と平和が保たれているという。その理由が本書で語られているのだが、興味あるかたはぜひ読んでほしい。
ただボクはその平和の理由もさることながら、どちらかというと著者の並はずれた行動力が気になる。いくら平和が保たれているとはいえ、紛争の絶えない超危険地帯ソマリアの一地域である。そんなところに行こうとすること自体考えられない。しかも行くだけではない。著者はなんと現地の人の輪に入りこんで、どんどん打ち解けていくのである。
ソマリランド人の生活は午前中は仕事をして、午後からみんなで「カート宴会」をやるという。カートとは覚醒植物のひとつで、いわゆる合法ハーブである。日本人が仕事を終えるとビールやお酒で晩酌したり飲み会をやるように、ソマリランドの人はカート宴会を催すという。
そこでなんと著者は取材という名目で現地人の集まるそのカート宴会にズケズケと入りこんでいくのだ。しかも同行者そっちのけで。そして著者は現地人と混じってカートをかじりだす。そのうち気分がよくなって、現地人といっしょにカートをバリバリ食いまくっては、みんなにおごりまくるのだ。
同行者から見たらおごってるのではなく、ただたかられてるだけのように映ったようで、それを聞いた著者は反省したようだが、しかしカート宴会の楽しさはクセになったようだ。
そして著者はカート宴会だけでなく、移動の車内でも朝からむさぼるようにカートをかじるようになる。もはや中毒だ。こうして著者はカート漬けとなり、まるで酔っぱらいのような醜態をさらしていくのだ。同行者そっちのけで。おいおい、大丈夫かよ、こっちのほうが心配になるわ。
しかしそのおかげで著者はソマリランド人のふところにどんどん入っていき、どんどん仲良くなって、どんどん本音を引き出していく。そしてついにソマリランドの平和の秘密をあばくのである。笑えるほどスゴいぞ。おそらく普通の取材ではなかなかこんなに聞き出せないだろう。
ただその平和の秘密、著者はわかりやすく工夫して説明しているのだが、ボクには著者の人並はずれた行動力のおもしろさのほうが勝って、どうにも頭に入ってこない。このときのボクの興味はソマリランドの秘密より、高野秀行という人物の得体のしれない生態のほうに移っているのである。
著者はソマリランドを取材して一度帰国している。そして再度ソマリアへ旅立つのだ。なぜかって、今度はリアル北斗の拳の世界であるプントランド(ソマリア南部)を取材するためだ。北斗の拳を知らずして平和なソマリランドは語れないという。みずからリアル北斗の拳に飛び込むんかぁーいッ、しかも今度は同行者なしだって?? どんだけマゾなんだよッッ。
この2回目のソマリア。同行者がいないこともあってか、著者のタガがはずれることとなる。事件あり、発見あり、出会いあり、そしてとうぜんのことながらカート爆食いからの醜態あり。最後はソマリアにたくさんの友人をつくって帰国するのである。信じられない……こんな日本人がいるとは。いやはや、ボクは逆に誇りに感じる。
ボクは心底思った。よく生きて日本へ帰ってこれたなって。超危険地帯であるソマリアへひとりで旅立ち、あらゆる事件やトラブルに遭遇しながらもすべて乗り越えるのだ。どれだけサバイバルで強靭な肉体をもつ人物なのだろうか。ボクはさっそくネットで著者を調べた。
…………え、なんだろ……。そこにはボクのイメージした人物像とは遠くかけ離れた姿があった。この人が高野秀行氏……(絶句)。失礼ながら見た目そのようなことをする人物に見えないのだ。
ていうかね、ますます興味が湧いてきたわ。こんなヒョロっとしてなんとも頼りない人物が、誰も行かないような辺境へひとりで行き、そして数かずの困難を乗り越え、最後はもはや現地人と化して帰ってくるのだ。逆に尊敬しかない。
ボクにとって、もはや彼の行き先はどこでもいい。高野秀行という人物に興味が湧いてきた。そういやこのまえ新刊が出とったな。読みたくなってきたぞ。
おそらく彼は想像するに、家族や親族にいたら迷惑だけど、遠くから眺めてるぶんにはとてもおもしろい人なんだろうな。ということで、とりあえず X(Twitter)フォローしとこ。
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