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ここに映画があるから5『理想郷』
2024年11月amazon primeにて有料鑑賞。※ネタバレあり
あらすじ。
フランスからスペインのガリシア地方の田舎に移住したアントワーヌとオリガ夫婦。家の前の畑を開墾し、念願の有機農業を行って、市場で野菜を販売している。改修して人が集まる場所に使いたいと空き家も見つけた。親切にしてくれる知り合いもでき、そこは夫婦にとって理想郷になるはずだった。
オープニング。
居酒屋で、声の大きい村人がゲーム仲間を威嚇している。狭いコミュニティでは人間関係は固定化して、声の大きい人、圧の強い人がその場をしきることになる。限界集落であれば他に逃げ場はない。
経済的な利益をもたらす風力発電の建設に反対したことから、アントワーヌたちは隣家の兄弟に嫌がらせを受けるようになる。アントワーヌたちは被害者だ。
けれどもこの映画、細部に注意してみれば、夫婦の豊かなスローライフには最初から不穏な空気があった(ような気がする)。住まいと別に購入した空き家は、実際は雨漏りがひどく、とても修繕できそうにない。スペインといえどもガリシア地方は雨が多い。この映画を満たすのは湿り気の多い陰鬱な空気だ。市場に立つアントワーヌの野菜は好評だが、その収入は多くはなく、不安定である。体の大きなアントワーヌが身をかがめて地面に這いつくばって農業をしている様は、なぜか苦行に見える。
アントワーヌは、風力発電は、外国企業が儲けようとする手段なだけだと知識を披露する。しかし村人には、知識を受け入れる土壌がない。現金がぶら下っているこの話をなぜ承諾しないのかと不快に思うだけだ。
知人が「ここは3回植えると、もっと作物がとれるよ」と言えば、「2回じゃないとダメなんだよ。もうちょっと勉強しろ」とアントワーヌは上から目線で答える。この男は知識があって、優位に立ってものを言うのだ。アントワーヌの体は大きい。声も大きい。誰か対立する者がいれば、いくらでも闘おうとする闘士なのだ。
そういうビジュアルのすべてが、アラートを発している。
いやーもう恐怖しかない。
この映画は実話に基づいている。世界中のどこでも、こんなことが起きてもおかしくない。その時、どんな判断をするのか。わたしは、アントワーヌ夫婦の娘に全面的に共感する。
風力発電の話がなければ、ここは本当に理想郷だったのか?
わたし自身、限界集落にある実家を貸し出したり、売却しようとするなかで、集落の人と今や都市部に住む自分との感覚の違いを強く感じた。
「実家の玄関に死んだ鳥が落ちていた事件」の時は、これは実家の賃貸や売却をやめさせたい人の嫌がらせかと思ったりもした。だから近隣とは密にコミュニケーションをとり、情報を拡散したし、借りてくれる人には無料で貸し出し、引き返せる道を用意した。
売却が完了するまでは、「やっぱり止めておきます」と言われないかと不安にもなったが、やめることも時には大切な選択で、尊重されねばならないと思ってもいた。
実家じまいのお話は下記マガジンより。