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歌舞伎観てきました!16 『天守物語』
2024年12月歌舞伎座にて観劇。
昨年12月には、富姫(七之助)、亀姫(玉三郎)で上演されたこの作品。もう二度とこの二人での上演は見られないかと思っていたけれど、ちょうど一年後の12月にまた東京で観られるなんて、それだけで溜息がでる。それも富姫・亀姫入れ替えてである。はぁ。
オープニングでは、侍女たちが天守から糸を垂れて地上の花を釣り上げる、ちょっとおかしみのあるシーン。花道に近い席だったので、目前に侍女の鶴松さん、芝のぶさん。そのたたずまいが、やわやわとこの世のものならぬ美しさだったので、わたしもするりと異界へ入り込む。地上と天上界を分けるこの導入の妙に改めて感嘆する。
案山子から雨よけに蓑を借りてきたという富姫は、ちょっとひょうきんでかわいらしい。奥女中薄役は前回と同じく吉弥さん。富姫様とも心を許したやりとりが続く。
亀姫と富姫、仲良し二人の睦まじい煙草のやりとりは、役柄を入れ替えても同じくむせ返るほどの濃密さだ。亀姫は、土産に血の滴る生首を持ってくる。舌長姥(門之助)が生首の血を舐めるのを泰然と眺める富姫・亀姫。この二人やっぱり異界の者。尋常じゃない。
そして白鷹を土産に亀姫が退場したあと、ひっそりとした夜の天守に富姫がひとり。
スッポンの階段から図書乃助(團子)登場!この登場の気迫がすごかった。タタタタタッと階段を駆け上がって、あたりを見渡すときの緊張をたたえ、見開いた眼。天守の内部へ踏み入る一歩一歩の硬い足取り。これはすごい、すごいよ。引き返せない者の命を賭した必死さがある。この瞳に富姫は最初から恋をしていたような気がする。
七之助さん玉三郎さん、どちらの富姫もこの世のものとは思えぬ美しさだし、どちらがどうとは言いたくないが、玉三郎富姫は、恋のために異界から降りくだり、図書乃助の元へ心を寄せてくる。それをしっかり受け止める大きさが團子図書乃助にはある。すごいよ、團子さん!
図書乃助「もう一度あなたのくちびるをみたい」
富姫「もう一度あなたのまつげをみたい」
目が見えなくなり、これを最後と心を決めた二人の、この台詞のなんと切ないなまめかしさであることよ。
まさしく恋が、恋だけがそこにある。
この物語はこういう話だったのかと驚く(わたしだけ?)。
七之助さんの富姫は至高の美しさで、最後の瞬間までこの世のものならざる異界のものだった。玉三郎さんの富姫は、恋に身を焦がす一人の女性に見えた。どちらが勝るとかではなくて、もうすごいとしか言いようがない。
歌舞伎歴が浅いので、團十郎(新之助)の図書乃助は見たことがない。
今度動画で見てみたいと思う。同じ話が役者を変え、演出を変えると一変する。歌舞伎って奥深いなぁ。
2023年12月の天守物語の記事は下記より
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