ここに映画があるから1『十一人の賊軍』
2024.11劇場にて鑑賞。
幕末の坂本龍馬や西郷隆盛は映画・ドラマでよく描かれますが、実は戊辰戦争はあまり描かれません。近代日本最大の内戦ともいわれ、まだ人々の中に生々しい記憶が伝わっているから、描き方が難しいのかな?会津と長州は犬猿の仲だというのは、他の地域の人にはピンときませんが、現地ではリアルにあるそうですね。本作、そういう意味では切実なテーマを含んだ映画です。
そもそもあの幕末の思想的混乱や変節は、観ている側がついていけない複雑な側面があって、描く方も観る方も覚悟が要ります。
戊辰戦争の時、奥羽越列藩同盟に参加し旧幕府軍側についた新発田藩(10万石)が、途中で新政府軍に寝返るのは歴史的事実です。この歴史的事実をベースに、寝返るまでの数日間、囚人たちに砦を守らせる策を講じたというのは、フィクションです。
おもしろい映画は常に史実の中に、どれだけ巧みなフィクションを構築できるかが鍵になってきます。この映画では、さまざまな理由で捕らえられている囚人が、砦を守り切れたら釈放するという条件で、葛藤を抱えつつ活躍します。これはフィクション。その代表格が、妻を犯した新発田藩士を殺害したマサ(山田孝之)。
そして、幕府に仕えることを常として武芸に励んできた武士が、ある日突然、倒幕だー!と言われたら、幕府へ身をささげ、反対勢力と戦いたいと思うのも当然です。その代表格として、兵士郎(仲野太賀)。ラストサムライとでも呼べる壮絶な戦いぶりでした。この人が実在したかどうか?おそらくフィクション。
史実側には、新発田藩の家老。阿部サダヲ演じる溝口内匠がいます。奥羽越列藩同盟を裏切ることで、領内に戦火を広げることなく波乱の幕末を乗り越えることになります。
阿部サダヲは、大義のためには小事をものともしない周到な残忍さを、気弱そうな顔の奥に隠していて凄みがあります。自分の娘のことなら爆泣きするのにね、というのも人間の性かもしれません。命の軽重が明確で怖い。
いずれも役者がすばらしく、犯罪者は犯罪者なりにそれぞれ個性があり、武士側もまた、一括りにできない個性がある。アクションシーンも面白かった。ただ、この監督の嗜好なのか、殺戮や残虐シーンがグロテスクすぎて、そこにばかり目が行ってしまうのが逆に残念。それがなくても十分な人間ドラマがあったので、グロテスクなシーンが苦手な私には、マイナスポイントでした。
ちょうど同じ時期公開の「侍タイムスリッパ―」も戊辰戦争が舞台ですが、こちらはほのぼのした中に、会津藩士の侍魂を感じさせてくれましたよ。