歌舞伎観てきました!9 『源氏物語・六条御息所の巻』
2024年10月歌舞伎座にて観劇。(※ネタばれあります)
光源氏に市川染五郎さん、六条御息所に玉三郎さんという話題の舞台。客席は満席でした。舞台のしつらえはモダンでシンプル。全面に和歌が記されたいくつもの壁に囲まれ、薄絹の垂幕が御簾のように並び、舞台奥まで見通せるような見通せないような…。会話の応酬なので、舞台上の動きは限られています。
もともと「源氏物語」は、麗しいモテ男の話。今回は、年上の六条御息所に恋をして、強引に押して押して押し倒した若き日の光源氏です。そこに説得力がなければ成立しません。半端な美男子ではダメなんですね。というわけで今回の染五郎さんは、設定としてはぴったり!わたし、これほど美しい人をみたことがありません。
六条御息所は、先の東宮の妃で教養もあり、東宮との間に子どももいて…という女性ですね。
六条御息所の心の声
光源氏は、最初はすごく押してきたのに、それに押されて恋が始まったはずなのに、あろうことか彼は最近わたしに飽きたようなのだ。そんなことがあっていいのか?でもわたしは年上だし、子どももいるし、最近容貌が衰えてきたような気がするし(実際、そこまでは言ってないけど)。賀茂の禊の日に、ひとめ光源氏を見ようと出かけたら、光源氏の正妻・葵の上の一行に追われて牛車を壊された。それでもあの人は、わたしに目もくれず素通りしていった…。そんなことありえない!許さない!
玉三郎さんが演じると、台詞になっていない部分も、こんな気持ちがダダ漏れの六条御息所です。光源氏が久しぶりに訪問して優しい声をかけてくれたのに、一緒に踊ろうと言ってくれたのに、嫉妬のあまり、豹変してしまった。豹変の瞬間は、玉三郎さんとちょうど目線がぶつかり、思わず口を押えてしまうほどの迫力。六条御息所が玉三郎さんに憑依したかのよう。
この舞台を観て改めて強く思ったのは、紫式部すごいなーということでした。昔読んだ「源氏物語」のなかでも「六条御息所」が一番心に残っていたせいでしょうか。恋とプライドと嫉妬と絶望が合体すると、生霊になって現れ、相手の女性に襲いかかるなんて、高校生のわたしには衝撃的すぎました。
そして千年の時を経ても、人の心の危うさに何の変わりもないこと、一歩間違えば誰だってこの妄執に陥る可能性はあることを、大人になったわたしは理解しています。恋人が訪れるのを、ただ待つだけの受身でいられないところには、ものすごく現代性を感じました(生霊にはなりたくないけど…)
「六条御息所の巻」の持つ力が、玉三郎さんを突き動かしてできたような舞台でした。
葵の上には時蔵(元梅枝)さん。いいですよね。
正妻なのに、なかなか光源氏の愛を受けられなかった悲しみや、いずれ落命することを予感させる儚さや、子どもを抱く喜びが静かにあふれていて。最近のどの舞台を観ても、台詞のひとつひとつに情感があって、大好きな役者さんです!