新しい名前をもらった。
昨日、私は荒れに荒れていた。
苦しい
苦しい
苦しい
どうにもならない津波のような感情。
揺らめくアスファルトの中、コンビニで白ワインをひっつかむとさっさとお会計を済まし、家で胃袋に流し込んだ。
…どうしよう。
自分で分析できない「雲の塊」みたいな不明瞭な感情は、どう取り扱えばいいのか分からない。
何歳の頃の…
何に起因する感情か…
わからないと対処できないんだ、私…
お酒は流し込んじゃったけど、もうちょっと健康な方法で感情を流せないかな?
そうだ、この間泣いたアニメ見よ。
涙で流しちゃえ!流れるもんなら!
数時間後。
私は坂を登り土管でできた道を下り、アニメの主人公がうずくまって泣いてた陶器のオブジェの中におさまっていた。
自然と泣けてきた。
ここなら泣いていい気がした。
「言えないよ…
言えないよ!
自分のことなんか!
また罵られて、
嘘つき扱いされて、
悪女だって突っぱねられるんだから!」
大声で泣くと観光客がびっくりするので啜り泣いた。
ひとしきり泣いたあと、少し離れたギャラリーの前を通りかかった。
あれ…
なんで、これがここにあるの?
(その置物は私が再び記憶を始めた30歳のときに皿洗いのボランティアをしていた喫茶店のシンボルで、そこのマスターとは私が19の頃からの知り合いである)
お店の人に訊いてみる。
「これ…これ…□□□□□(喫茶の名前)の猫ですよね。
タケちゃんが焼いたやつ
どうしてここに…?」
「□□□□□と知り合いかね?
あと、…あの話 知っとるね?」
「…え?」
……マスターは先日亡くなったらしい。
私はポロポロ泣きながら話をしていたけど、あの破茶滅茶オヤジのとぼけた顔と毎度のセクハラ発言を思い出すとだんだん笑えてきた。
ギャラリーのご主人とマスターの思い出話しをしていた。
「しっかし、□□□□□の話ができるなんて思ってなかったよ、こんな若い人と」
「私、泣きたい私は猫を被るを見て、今日はここに泣きに来たの。
そしたら、タケちゃんが焼いた人形があるからびっくりして…」
窓から風が吹き込む。
売り物の陶器の風鈴が鳴る。
「そうだ、普段はお客さんにサービスで描いとる絵だけど一枚描いたる
名前は?」
「〇〇」
ご主人は硯やら筆やら取り出して、サラサラと描いていく。
上には私の名前をもじった詩を書き込む。
裏にはご本人の似顔絵入り(笑)。
ふわーっと涙が溢れた。
私は私の名前が大嫌いだ。
大嫌いなオヤが大嫌いな理由でつけた大嫌いな名前。
この名前とセットで罵声や物が飛んでくる。
「〇〇!どこにいる!出てこい!」
「〇〇!貴様なんか死ねぇ!」
いままで、怯える対象でしかなかった自分の名前。
自分で呼んでもゾワッとしてた。
絵を受け取ったとき、
「私の赤ん坊の頃に…似てます、きっと」
ご主人は嬉しそうだった。
あんまりボロボロ泣いちゃ迷惑かもしれないと思ったけど、止まらなかった。
…オヤとセットにしなければいいんだ。
…見ず知らずの人には〇〇という名前と私って生き物の組み合わせでこんな可愛らしい絵になるんだもの。
…私、こだわり過ぎてたかも。
……夜。
「…〇〇ちゃん」
「…〇〇ちゃん」
自分のちょっと新しい名前を呼んでみた。
私の声は少々子供っぽいハイトーンなんだけど角が取れていて優しい声だ…たぶん!
「〇〇ちゃん…優しく呼べば怖くないね」
そしてまた泣く(苦笑)。
優しく呼ばれてきたかったらしい😅
そりゃ誰だってそうだよね。
そうして鼻をかみかみ夜は更けていった。
新しい名前というか新ver.かな?
ご主人、ありがとう。
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