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ざっくり文体論コラム。後回しにするレトリック。【情報待機1】 #11
ざっくり日本語学コラム~🎉🎉🎉
配列の原理、3回目!
あらため、
改称、「ざっくり文体論コラム」。
ざっくり文体論コラム~🎉🎉🎉
配列の原理、3回目!
これまで「ざっくり日本語学コラム」と称し、文章表現のよもやまを特スキ記事の端っこでやっていました。
が、最近はレトリックに手を出し、以降ボリュームがどんどん膨らんでおります。
自身の好奇心も乗じ、これまでよりも真剣にやりたいというのもあってこのたび単独の企画で展開することに決めました。
とりあえずで名付けた「ざっくり日本語学コラム」も、日本語学という広い括りを再度見つめ直し、私が高い関心を持つ文体にフォーカスしようと思います。
ざっくり文体論コラム。
内容はこれまでと地続きです。
レトリックの配列の原理からやっていきたいと思います。
レトリックのおさらい。
はじめての方もいらっしゃると思うので、軽くおさらいをします。
まず、ここで言うレトリックとは一体どういうものなのか。
それについて、私の推し本である中村明先生の『文体トレーニング』から引用して説明します。
「レトリック」ということばは文章のうわべを飾るまやかしの技術といった、虚飾のにおいがしみついている。だが、真正のレトリックは的確な表現を選び、あるいは考え出す行為としての方法のすべてなのだ。
厚化粧をしたデコラティヴな文章の時代は終わった。レトリックは今、もっとも基本的な表現技術としてよみがえる。
このざっくり文体論コラムは、私の勉強noteでもあります。
学んでいくプロセスをそのまま共有していけるように、ざっくり書いていけたらと思います。
📚
では、さっそくレトリックの中身です。
レトリックとは以下の2つの在り方があり、7つの原理に分けられるとします。
展開のレトリック
1.配列の原理
2.反復の原理
3.付加の原理
4.省略の原理
伝達のレトリック
5.間接の原理
6.置換の原理
7.多重の原理
これらの原理に基づき、あまたの文彩が定義されているとします。
文彩/文采 ・・・ 1 取り合わせた色彩。模様。色どり。あや。 2 文章の巧みな言い回し。
その文彩の中身を見ていくのが今回の試み。
今は入口である配列の原理を勉強しています。最初のダンジョンですね。
📚
前回までで触れたのは以下の3つ。
レトリックのはじまりともいえる、一見常識とも思える配列の考え方です。
序次法 ・・・ 一定の方針にしたがって順序正しく述べる修辞技法。
括進法 ・・・ 途中で一度括り、それをもとに次を述べる修辞技法。
奇先法 ・・・ 最初に奇言を発して注意をひき、のちに説明して納得させる修辞技法。
この3つはまとめて捉えるのが楽そうなので、まとめて序次セットとします。
詳しい内容は前回までのざっくり日本語学コラムをご覧ください。
📚序次法、括進法
📚奇先法
では、配列の原理のつづきに触れます。
手始めにやったのは配列の操作。
ここからしばらくは情報の操作です。
未決法と誤解誘導からなる情報待機。
照応法、反照法。
そして皆さんご存知の伏線をやります。
情報待機セット。
情報待機は未決法や誤解誘導の総称であり、ボスと考えてください。
これらをいったん情報待機セットとしてまとめます。
情報待機、未決法、誤解誘導の定義は以下の通りです。
情報待機 ・・・ 情報を故意に待機させる修辞技法。
未決法 ・・・ 情報を待機させて文意を宙吊り状態に置く修辞技法。
誤解誘導 ・・・ 必要情報を故意に伏せて誤った思い込みを誘う修辞技法。
「情報を故意に待機させる」とは、読者が知りたがりそうな事柄をすぐに述べず、わざと後回しにするなどして通常の配列を意図的にズラすことです。
情報を待機させて読者の興味を先へ先へと引っ張っていくことから、情報待機という名がついたのでしょう。
📚
情報待機を使った手法として、例に太宰治の『葉』が挙げられています。
冒頭が、
死のうと思っていた。
というフレーズではじまる初期のお話ですね。
そんな衝撃的な書き出しから何がつづくかと思えば、お正月に着物を一反もらったとか、お年玉だったとか、布地は麻でこまかい縞目が織り込まれているとか、「これは夏に着るものだよなァ」みたいな感想じみたレビューだとか、冒頭の感情とはまったくつながらない着物のディテールのくだりがつらつらとつづきます。
そしてさらりと息を吐くように、
夏まで生きていようと思った。
という段落のオチが出てきて急に冒頭とつながる。
こうして、核たる情報を後の文章に置いて読者を引っ張っていくレトリックが情報待機です。
元旦のお年玉で自身の決意がいとも簡単にひっくりかえってしまった、という一節。
次の段落では、私なりにこの段落を配列のレトリックとして見てみます。
実践、情報待機。
まずは元の文章を引用します。
わかりやすく改行して番号を打ちます。
(1)死のうと思っていた。
(2)ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。
着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目しまめが織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。
(3)夏まで生きていようと思った。
次に、序次法的に順序だてて並びを変えます。
仮に、私はこのように考えていて、理由は以下の通りだという順序で並べます。
その場合、段落の文章は(1)→(3)→(2)という順番になります。
(1)死のうと思っていたが、(3)夏まで生きていようと思った。
(2)ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。
着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目しまめが織りこめられていた。これは夏に着る着物であろうから。
だいたいこんな感じになるかと。
「が、」と「から」は検証において文章の通りを良くするために、こちらで書き加えました。
自分の考えとその理由という順序で語れば上記の流れになります。
原文は、最初の文の情報から半分を取り去って、(2)のあとに置いたという感じですね。
考え方は奇先法に似ていますが、奇言ではなく読者が知りたそうな情報を操作しているという点で異なります。
ただ、奇先法と似ているだけに、応用が効くレトリックであることは共通しています。
たとえば……。
まずは事柄を並べ、
死のうと思っていた が、 夏まで生きていようと思った。
ことしの正月、よそから着物を一反もらった。
お年玉としてである。
着物の布地は麻であった。
鼠色のこまかい縞目しまめが織りこめられていた。
これは夏に着る着物であろう。
次に興味をひきそうな情報が後の方にまわるよう、文章を割って配列し直します。
すると、
死のうと思っていた。
ことしの正月、よそから着物を一反もらった。
お年玉としてである。
着物の布地は麻であった。
鼠色のこまかい縞目しまめが織りこめられていた。
これは夏に着る着物であろう。
夏まで生きていようと思った。
となるわけですね。
情報待機は扱いやすくて応用が効く便利なレトリックです。
これを使えば、1つの事柄を語るエッセイも1本のショートショートにできそうですね。
次回に向けて。
さて。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回のざっくり文体論コラムはいったんここまでです。
情報待機セットということで、未決法と誤解誘導までセットでやりたかったのですが、おそらく1万字超えてくることが予想されたため、まずは情報待機だけ紹介させていただきました。
次回は情報待機の後半。
未決法と誤解誘導です。
未決法は情報を明かさずに記述していくことで、ミステリなどでよく使われていますね。
そして、誤解誘導は読者のミスリーディングを誘うレトリックです。
特徴的な動きをするレトリックで、これらも配列の原理のなかで扱われます。
特に誤解誘導はわかりやすく事例つきで深掘ってみる予定です。
そこまでやったら、次は伏線の話。
お楽しみに。
📚
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ななくさつゆり
参考文献
📚日本語の文体・レトリック辞典(中村明)
📚太宰治『葉』
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