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ムーンライト・シャドウを観たら、食欲がわいてきた

幸いにも、大切な人を亡くした経験は少ない。年齢的に、これから増えてくるんだろうと思う。後か先か、いつかかならず自分もいなくなる。

吉本ばななさん原作の『ムーンライト・シャドウ』を観てきた。

恋人を亡くしたさつき、兄と恋人を失った柊。死んだ人に会える「月影現象」に2人を導くうらら。川のある景色と、響く鈴の音。

原作を知っている人には、別の作品にも感じられるかもしれない。削ぎ落として厳選された言葉だけが、静かに流れる音楽と映像にちりばめられていた。
朝の日差し、暮らしの中の明かり、闇を彩る街灯、キャンプのランタン。等しく人々を照らし、寄り添う光が印象的だった。

食べることは生きることだと、私も思う。
『千と千尋の神隠し』で、ハクが千尋に差し出すおにぎり。ドラマ『カルテット』で真紀とすずめが食べるカツ丼。『食堂かたつむり』で、倫子が声を取り戻すきっかけとなる山鳩。

泣いているさつきが「お腹がすいた」と唐突に言い出し、涙を流しながらも「今??」という顔で柊がきょとんとする。それから、ふたりでおそばを食べに行き、無言で天ぷらをかみしめる。
4人で楽しくご飯を食べていた頃とは、すっかり変わってしまった。くりかえす食事は命をつなぎ、時間はどんどん流れていく。とどまっていることが出来ない。

忘れない。だから生きていく。

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近所の映画館の上映が、朝と夕方しかなかったので、9:00の回を観に行った。平日だろうが好きなように動ける今の生活は、ありがたいけど後ろめたい。縦より横になっている方が楽で、やる気のない低体温でこのところ過ごしている。

泣きたいのにずっと泣けなくて、でも映画のおかげでやっと泣けた。黒い服で行ってよかったと思う。下手くそな洗顔後みたいに、衿元はぐしょぐしょになっていた。

観終わったあと、猛烈に銀だこが食べたくなり、帰りの足でフードコートへ寄った。あつあつのカリカリ、ずっと食べたかった香ばしいソースの味。
美容とか健康とか大事だけど、お腹が空いて、その時1番食べたいものを食べることは最高にしあわせだと思った。

今は冴えない時期だけど、波があるのは常だから、きっとまた楽しくて忙しい時期がやってくる。流れに身をまかせて、これからもいろんな感情を味わいながら過ごしていく。
美味しくご飯を食べながら。

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