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映画「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」~文学的な妻は夫と一緒にいたい

※いまさらですが、ネタバレ注意

とにかく妻ちえの死んだふりの完成度が高くて、笑える作品

夫じゅんは、バツイチ。
ちえと結婚して3年が経ったある日。
仕事がから帰ると、ちえが口から血を流して倒れていた。
じゅんは、慌てて救急車を呼ぼうと「117、117(それは時報)」。
そこでちえは、起き上がって「わー!」と驚かして、「驚きました?」。
そりゃ驚く。
口から血(ケチャップ)が出ているし。

それが必ず、毎日続く。
死に方は、毎日違う。
頭に矢が刺さったり、ワニに食われたり。
死に方の完成度が高いので、おかしい。

で、なぜ、そんなことをするようになったのか。
その疑問を最後まで引っ張って、結局観客には明かさない。
ずるい。

ちえは、石川啄木の「一握の砂」の歌をじゅんに言うシーンがある。
文学的素養があるのだろうなと思っていたら、「月が綺麗ですね」と言ったりもする。
ベッドでも、寝言のふりをして「月が綺麗ですね」とじゅんに言ったりする。
その意味にじゅんは気づかない。
夏目漱石が「I LOVE YOU」を「月が綺麗ですね」と訳したという逸話が有名なので、知っている人は知っているので、この辺でちえの気持ちを観客に気付かせている。

ちえはじゅんに相手にしてほしかったのだろう。
だから、ちえの死んだふりにじゅんが全力で付き合ったときは楽しそうだった。
言ってほしいセリフまで用意した。

ちえは一緒にいる時間を計算をする。
そして結婚するときのちえからのお願い。
「絶対に私より先に死なないでください」と。
どう考えてもじゅんのほうが年上だし、80歳まで生きるとして、、、。
ちえはじゅんとの時間を大切にしたいと思っている。
クリーニング屋の店主にも言われた。
「旦那さんと一緒にいる時間を大切にしなさい」と。
このセリフがグッとくる。

前の妻と3年で離婚したじゅんは、ちえと3年経ったら結婚生活を続けるか意志を確認しあおうと話していた。
ちえのその答えが死んだふりである。

先述したようにちえは、文学的素養がある。
だから言葉を大切にする。
適当なやさしい言葉をかけることはしない。
やさしい言葉が人を傷つけることを知っている。

二葉亭四迷が訳したツルゲーネフの小説「片恋」
そのなかで「死んでもいいわ」というセリフがある。
ロシア語の「ваша」を「死んでもいいわ」と訳したとのこと。
英語では、「yours」の意味を「貴方のものよ」を「死んでもいいわ」を情熱的に訳した。

ちえの実家にあった「日本文学便覧」。
じゅんは、そのなかの夏目漱石のページと二葉亭四迷のページを見て、「月が綺麗ですね」の意味を知り、「死んでもいいわ」の返答を試みる。
これが正しいかどうかは疑問があるが、まあいい。

ちえは「死んでもいい」と思えるほど、じゅんのことが好きだった。
だから「死んだふり」をしていたのだろう。

夫婦が一緒にいること。
この時間が幸せに感じるちえが、とてもかわいく思える。
ひとりになりたくない。
ちえは、いつでも死ぬ準備はできている。

2024-08-26


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