きみが眠って起きるまで。
真夜中にふと目を覚ますと、隣の布団から寝息が聞こえてくる。直後、私の喉元に娘の足の裏が飛んできた。
日によっては右パンチが顔をかすめたり、お腹を枕にされたりもする。
子供というのは寝ている間も動き回っているものらしく、布団にはいったときには枕の向きが揃っていても、そのうち寝返りを打ちつつ移動し始めて、私に対して直角になってゆく。そうして、大体足か頭がこちらを向いているため、時折手足が伸びてきて夜中に目が覚める。
幼児の頃はもっと容赦がなくて、拳の小ささゆえに、みぞおちに的確にパンチが入ることがしばしばあった。翌朝になってもダメージが残るくらいで、びっくりするほど痛いのだ。そういう娘を見ていると、多分、私も小さな頃には寝ながらずいぶんと動き回って、母や兄弟を蹴っ飛ばしていたことだろうとしみじみする。
カーテンに朝の光がすっかり射し込み、携帯電話のアラームがヴーンと震えて、娘が起きる時間を知らせる。私は布団にくるまる娘の体をなでながら声をかけた。
「おはよう。朝だよ」
なでているうちに、猫のしっぽのように足先をパタパタと動かす。起きた合図だ。それから二度ほど寝返りをして壁にぶつかり、そのまま寝返りをしつつこちらへ引き返してくる。たまに頭が膝の上に乗っかって膝枕のようになる。寝てしまわないのかな、と思いつつ眺めている私をよそに、スクッと起き上がり、部屋の隅に置かれた着替えをつかんで部屋を出ていった。
幼い頃、膝枕をしていると娘はとても気持ちよさそうにしていた。高い熱を出してぐったりとしているときなどは、布団を敷いた部屋で膝枕をしているうちに眠ることがあった。いつだったか、「膝枕の素材で枕を作ったらきっと最高の寝心地」と言っていたので、子供心に随分と心地よいものだったのだろうなと思う。
娘も日々成長していく。ある時、不意に「おんぶして」と言い出したので背負ってみると、「昔、熱を出したときにこうしてもらったな」と思い出したように言った。
子供の頃の小さな記憶の欠片を胸に残しながら、大人になってゆくのだろう。残るものと残らないものの区別も私には分からないけれど、積み重なっていく時間のうちの、ほんの束の間、頭をよぎるものが、ほっと一息つくような手触りのものであると、幸いに思う。