いつか歩いた道、この先も歩く道。
夜。鈴虫が足元でリンと鳴く。電車の時間まであと15分程ある。駅まで遠回りをしてみようと、いつも通る細い歩道を迂回した。木立の向こうのだだっ広い駐車場の街灯が、無言で光る。
車の顔が一列にこちらを向いていた。その列を右手に見ながら歩く。車の後方側に茂る山茶花は、冬になるとピンクがかった紅色をした鮮やかな花を咲かせる。豊かに咲き誇る花弁は冷たい風が吹く白く曇った空の下にあっても優しげで、にこやかに微笑むようであった。
「今年もきれいに咲いたね」
私の隣を歩く母に声を掛けると、母