「今が一番楽しい」 倒れても働いた日々が作った今日
駄菓子屋「菊地商店」にようこそ!
入場料は笑顔。みなさんの元気な姿が、店に立つ特効薬です。
菊地さんは、毎日欠かさず薬を飲んでいます。営業中に一度倒れてしまい、引退もよぎりましたが、それでも店頭に立ち続ける理由は「ここにいる時間が一番楽しいから」。実は私ライター増田の祖母も自営業をやっていたので、彼女の姿はどこか祖母に重なります。無理のない範囲でショーマストゴーオンしてほしいですね。
大森駅近くのお菓子の森。大人も気づけば子どもになっちゃう?買いすぎにはご注意を(笑)
それでは、いってらっしゃい!!
子どものみんな、オラに元気を!
ー 家が駄菓子屋って、子どもにとっては夢の国ですね。
菊地さん:おいしいものいっぱいあるもん(笑) 私も子どものエネルギーをもらって元気になっているね。
ー いつからここで商売を?
菊地さん:ここが始まったのは、私が30歳すぎたときのことかな。
お客さんから駄菓子屋やってみたらと勧められて。
ー それから50年、辞めたいと思ったことはありますか?
菊地さん:あんまりなかったね。子どもは「おばちゃん、おばちゃん、大丈夫? やってよ、やってよ」って言う(笑) 大人も「おばちゃん頑張ってね」って言ってくれる。
ー もともと子ども好きですか?
菊地さん:来る子どもはかわいいよ。
ー だから辞められない?
菊地さん:前は毎日やっていたけど、病気しちゃったからね。入院したりして、私の息子は「あんまりやっちゃいけない。適当にやって適当に休んでください」って言うけど。
ー お母さんなら120歳くらいまでできそう(笑)
菊地さん:そんなできるわけないじゃん(笑)
ー (壁の貼り紙を見て)メッセージたくさんありますね。
菊地さん:いっぱいあるよ。子どもから書いてもらった手紙。
ー この辺は小学校の数も多そうですね。
菊地さん:多いよ。
ー じゃあ学校終わってみんなが来る。
菊地さん:そうそう。平日だと。
ー お母さんにとって営業日の水曜日は楽しみな日ですね。
菊地さん:帰ってくると「おばちゃん!!今帰ってきたよー!」って13時半とかに学校が終わるからね。学校帰りに直接寄っちゃだめだよーって。
ー 1回家帰ってからまた来てねって?
菊地さん:お母さんに怒られてしまうからね。言われるでしょ。学校帰りはダメだよって。一旦帰ってからって。
あの頃のあの子が親に
ー この辺に住む人たちは、ここの駄菓子屋で育って来た?
菊地さん:そうそうそう。だからここで遊んだ人が、結婚して子どもができて、ここでお父さん遊んだよって連れて来てるくれる。だから嬉しいよ。
ー あの子だって思うことはありますか?あの時のあの子と面影似ているなって。
菊地さん:顔は覚えているからさ、昔の子どもたちは忘れられないよ。
ずっと遊んでいたから。
ー 当時は毎日子どもが来てた?
菊地さん:毎日来てた。めちゃくちゃ喋ってゲーム機で遊んで。今では、子ども連れて来てね。
八百屋から駄菓子屋に
ー 旦那さんはどんな人?
菊地さん:一生懸命やったってね、「いらっしゃい、いらっしゃいませ」ってね。私より先に逝ってしまったけど。
ー そうでしたか。結婚はいつ頃されたんですか?
菊地さん:早かったよ。私の時代は、恋愛より見合いの方が多かった。
うち八百屋だったのよ。
ー 八百屋だったんですね。ビックリ!
菊地さん:元々は隣で八百屋をしていた。八百屋に嫁に行ったの。
ー 気づいたら駄菓子屋に?
菊地さん:駄菓子屋は私がやり始めたの。ゲームを八百屋に2台置いといた。そしたら子どもがバー集まってきて、こういうものいっぱい置いてよって言われてさ。それでここへ。元々はキャベツ置いたり、玉ねぎを置いたりする野菜の倉庫だった。(義理の)両親に子どもがこんなこと言っているからどうしようと相談して、やってみたらって言われた。
ー 良いご両親ですね。
菊地さん:うん。ここの(義理の)お母さんとすごく仲良かったから。それでやり始めたら、こっちの方が繁盛しちゃって。
家事と仕事で四苦八苦
ー 駄菓子屋を始めてからは?
菊地さん:始めてからの方が大変だった。八百屋もやって、主人の兄弟が5人くらいいて、お父さんとお母さんでしょ。それから子どもが生まれて。お店は昼もやって、品物が来るから品出して、ご飯作っての繰り返しで忙しかった。料理も洗濯も掃除もすごく大変だったよ。今の若い人は私みたいにいかないな。
ー 耐えられないですかね?
菊地さん:耐えられないし、自分の生活で精一杯になると思う。親の面倒みながら仕事は大変だよ。自分の子どもを育てるだけでも大変なのに親の面倒見てみなさい。ヒーヒーしちゃうよ。親を大切にね。
ー はい!!
菊地さん:生きるってことは大変だよ。
店で倒れたこともあった
ー いつもお昼は?
菊地さん:食べない時もあるよ。お腹空いたって間が開かないから、食べる暇がない。食べるって言ってもパン1つ。食べれれば良い方。
私の食べるものは全部薬と同じ。朝起きてヨーグルト食べるでしょ、麦ジュース飲んだり、ジャム食べたり、みんな薬なのよ。レバー食べたりしてね。
血の循環を良くする。先生が言っていたから。朝野菜と炒めて食べるの。
薬なんかいっぱい飲んでいるよ。12個飲んでいるよ。
ー 商売していると倒れられないですもんね。
菊地さん:倒れちゃったら大変だよ。昔、ここで倒れたんだから。救急車を呼んだんだから。息子がいたから良かったけど、いなかったらそのままあの世逝ってるよ。だから息子には、そんなの辞めろと今では言われる。くだらないものやるんじゃないよってさ。
ー え、なんでこんな素敵な商売を辞めろと?
菊地さん:死にかかりの病気が3つもあるから。
ー それは大変だ…
菊地さん:血液がまわらなくて、ご臨終ですってとこまでいったの。手術もしたし。だから息子が気が気じゃないわけよ、息子に助けてもらっている。
ー 息子さんは今も一緒に住んでいる?
菊地さん:息子は別に住んでいる。息子って言ってももう60歳だよ。
ー 僕らの両親と同じくらいですね。
菊地さん:そうそう。孫は20歳くらいで社会人。
ー 同じくらいですね(笑)息子さんはこの駄菓子屋を継いだりしないんですか?
菊地さん:やるわけないじゃない。こんな儲からない駄菓子屋。
ー 息子さんも小さい頃は来ていた?
菊地さん:ただで食べられるからね(笑) 小さい子は誰もがお菓子好きだよね。
ー それにしても人が途切れないですよね。
菊地さん:そう。途切れない。駄菓子はそれだけ人気があるんだよ。みんなが通る道。1円、2円のお菓子を売っているんだよ。儲からないけど。
店に立つことが“特効薬“
ー いつまで続けたいと考えている?
菊地さん:ボケて続けてもね…
ー お母さんにとっては店頭に立って働いていることが、1番の特効薬だったり。
菊地さん:うん。そうそうそう。私はそういう人間なんで。
ー 今は楽しい?
菊地さん:一番楽しい。
ー 今までで一番!?今までと今はどう違いますか?
菊地さん:ここに嫁に来てそれは苦労して、苦労して苦労した。すごい働いた。今の人じゃこんな嫁はいないくらい。
ー そうですよね。
菊地さん:どれだけ逃げようかと思ったか。だけど逃げると子どもが可哀想だから。私が忙しかったのを知っていたから、子ども達は今でも「お母さん、お母さん」と私を大事にしてくれる。そんな今が1番最高。昔のことがあるからこれだけの幸せがあるんだなと思う。人間は苦労しただけ幸せが後からくるんだよ。あなたたちもこれからの人だから、苦しい時もあるでしょう。3年過ぎれば良いって言うからね。同じ仕事が3年続けば、落ち着くって言うから。我慢して働きな。なんでもそうだよ。
ー お母さんにとって駄菓子屋の仕事は?
菊地さん:私にとっては遊びだよ。私の遊び。
ー 生まれ変わっても駄菓子屋やりたい?
菊地さん:やらないやらない。
ー 今この時代に生まれていたら?
菊地さん:もっといいこといっぱいあるだろうよ。
ー 例えば?
菊地さん:そんなこと考えないよ。健康だけを考えてますよ私は。
それは死んでからのあれだね。何になろうかというのは。
◇取材後記
駄菓子屋『菊池商店』
東京都品川区南大井4-14-19
営業日時:毎週水・金・土・日 10:30〜17:00
定休日:月・火・木曜日