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storm~建国の狼煙~

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なろうで連載中のラノベ ↓にあるのは推敲前。上にあるのは推敲後の文章です。読み比べるのも面白いかと。
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#小説

STORM 16

STORM 16

Falling 2

 それでも私は、死ぬ理由を探している。

数週間、私の身体を支配するジョカ、という人間と生活を共にしてわかった事がいくつかあった。

日中は負傷兵の世話をし、夜は兵士の性処理を行い、身体中が軋むほどの疲労を抱えながら気絶するように眠った後、起きる直前少しだけジョカの支配が解かれる気配がする。

起床時の倦怠感と抜けきらない疲労に頭を抱えている間に、あいつが戻ってきて何事もなか

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STORM 15

STORM 15

Falling 1

 コヌヒーへ向かう船の中で、初めて襲われた。

味見だ、と笑いながら私の身体に手を伸ばした初老の男はその船の船長で、私は上目遣いに彼に媚びながら、優しくして、と吐き気を催すセリフを言った。

私が言ったんじゃあない。私の体を支配している、ジョカという男が演技して言った。

私は抗った。動かない腕を何度も動かそうと努力した。

男の舌が私の肌を舐める。嫌悪に鳥肌がたって、私は絶

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STORM 14

STORM 14

Purple Lamborghini 3

 まぁまぁ、と言葉を投げたのは、フェニスの隣に座する白い顔の男だった。

「レディには刺激が強い世界だ、あまり一気に慣れさせては趣がなくなる。一定の清楚さは必要だ」

 長い足を弾ませて客人用の椅子から腰を上げた男は、貼り付けた様な笑顔はそのまま私のそばへと降りてきた。

そして、顔と同じ白さ、何処か土気色をした手のひらを私に差し出して、膝をつく。

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STORM 13

STORM 13

Purple Lamborghini 2

 端的な自己紹介を済ませた後、シン・ライツはすぐに振り返り、目の前の巨大な白い扉に手をかけた。

 置いていかれてなるものか、と思った。

 世界は確かに間違いでは満ちている。

 だからこそ私達、女性には理性があり、その理性をして他者を教育しなければならない。

 足早に彼の背中へ追い縋った。

 短い三段のステップを駆け上がり、彼の高い背中を見上げな

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STORM 12

STORM 12

Purple Lamborghini 1

 ずっと自分が嫌いだった。

劣等感に苛まれ続けていると、段々と自分の内部を見るようになる。

外部は酷いものだから、内部にしか逃げ場がない。

だから内部を見る。

そうすると、このネガティブな感情の源泉がわかってくる。

私の場合は名前だった。

正確にいうと、ファミリーネーム。自分の、名前自体は気に入っている。

サエル。

私は、サエル・ベル。

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STORM 11

STORM 11

interlude 1 ~幕間~

 西と東とが交わる交易点、サウス・アラギラという大国にはある特徴があった。

その国内では、誰もが誰の許可もいらず、自由に品物を売買することが出来る。

例え外国人であってもだ。

サウス・アラギラの街のど真ん中に開かれた広大な土地は、『ギラン』と呼ばれ、使用料を払えば何を売っても構わない。

そこに人の首が並ぶ事もあるし、非合法の薬物が並ぶ事もある。

当然武

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STORM 10

STORM 10

butterflyeffect 10

 火照った頬を切り裂くのは、張り詰めた冷気だった。

 黒い夜の鳥を追いかけて、僕は階段を駆け上る。
耳にうるさい、銃が僕の背中でカチャカチャ音を立ててる。
ヨーセフによく言われた、なるべく音を立てない様に動くんだ。
そんな事頭から全部飛んでいってしまうぐらい、僕は興奮をしていた。
なんでだろう。
導師アースィムを言い負かしたから?
見たこともないぐらい強く

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STORM 9

STORM 9

butterflyeffect 9

 そいつが現れたのが、ヨーセフの処刑から一週間経った晴れた夜のことだった。
街外れの街道の端でそいつを待ってた僕の前に、奴は音も立てずに闇の中から現れた。
夜がたわんで波になって、その隙間からぬるりと白い顔が這い出てきて、次いで強いタバコの香りがあたりに漂った。
男は腰を曲げて、伸ばして一服大きくタバコの煙を吐き出す。
彼の口からでてきた、息なのか煙なのか、底

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STORM 8

STORM 8

butterflyeffect 8

 Stormだと、とヨーセフが言った。

奥歯を噛み締めたとても聞きにくい声だった。だから彼が何かしらを堪えて発言しているのがよくわかる。

感情は多分、怒りだろうと思う。

「あの狂犬どもを呼び込む気か!」

 導師アースィムは動じない。

鋭い顎に讃えた髭を更に鋭く、細い目を輝かせてヨーセフを見ている。

「知らないのか?!Stormだぞ!関わったものは全

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STORM 7

STORM 7

butterflyeffect 7

 ケルベラの皮のブーツが硬い雪を踏む音がする。

一晩中降り続いた雪が全てを白く包んでしまうコヌヒーの冬だ。

朝から雪かきに追われて、アジト周辺の哨戒偵察に行けたのは、日も暮れた頃、また降り出した雪にうんざりしながら僕は高い空を見上げる。

コヌヒーの冬はいつもどんより曇っていて薄暗い。

前を行くのはヨーセフ、僕とルルワの婚姻を指揮してくれた、反乱軍の隊長

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STORM 5

STORM 5

 butterfly effect 5

フードを跳ね上げた男は、銀色の長髪を靡かせて大きな剣でハーディの首から腕にかけてを切り下げた。
ハーディの切り落とされた太い腕が地面に転がるか否かの短い時間の中で踵を返したその男は、次にルディの喉をついた。
背後の木の幹に縫い付けられたルディは、ぐ、と呻いて白目を剥いた。
即座に剣は引き抜かれて、ルディの喉からは雨の日の排水口の様な血が流れ始める。
そのま

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STORM 6

STORM 6

butterflyeffect 6

 僕達を見下げたヨーセフは言った。

「ハーディはどうした」

 薄汚れた泥まみれの体を誇る様に立った僕達は、今度は物怖じせずに彼に告げた。

「死んだ」

 ヨーセフはその棍棒みたいな銃を一度揺らして顔を伏せた。
毛のない頭部を片手で撫で、顔を上げた。
口髭は藪みたいに茂っているのに、頭にはない。
僕はそれが少しおかしかった。
でもヨーセフの目は、学校で見る

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STORM 4

STORM 4

butterfly effect 4

 どうやって歩いているのかわからない。

ハーディの声が時たま聞こえて、ハーディの大きな手のひらが僕の背中に添えられている。
温かい。
仕方ないんだ、ヤヒム。
ハーディが何か言ってる。
きっと君のためになる。
なんだろうか。
森の中を歩く。
キャンプとは真反対の森の中を、僕はハーディに連れられて歩いている。
お腹が空いた。目がチカチカする。何も考えられない。

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STORM 2

STORM 2

第2話 butterfly effect 2綺麗な目をしたルルワ、かわいそうなルルワ、僕はルルワにも夢中になった。

 この岩山から、遠くに見えるコヌヒーの宮殿は艶やかで穏やかだ。
金色に照らされた丸いドームが青い空に映えて美しい。
小さい頃、街の中から見上げるあのドームは僕の誇りだった。
美しいものがある、美しくて大きなものがある風景が僕はとても好きだった。
今はどうだろう。
変わらない金色のド

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