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STORM 5

 butterfly effect 5

フードを跳ね上げた男は、銀色の長髪を靡かせて大きな剣でハーディの首から腕にかけてを切り下げた。
ハーディの切り落とされた太い腕が地面に転がるか否かの短い時間の中で踵を返したその男は、次にルディの喉をついた。
背後の木の幹に縫い付けられたルディは、ぐ、と呻いて白目を剥いた。
即座に剣は引き抜かれて、ルディの喉からは雨の日の排水口の様な血が流れ始める。
そのまま倒れたルディを見もせず、銀色の男はハーディに近づく。
ハーディはまだ生きていた。
腕を押さえながら、絡まる足を励まして立ち上がり逃げようとした。
その背中に大きな剣を振り上げた男が迫る。
カンテラの明かりが彼を照らす。

靡く長い髪は銀髪、鍛え上げられた肉体に張り付いているのは青みがかったプラチナの鎧。
その色は、カンテラの赤い光と混ざって紫に見えた。

ああ、と短い断末魔をあげたハーディの頭がぐしゃり、と音を出して潰れた。

静かになった体から大きな剣を引き抜いて男はグレイの瞳を左右に走らせる。
血の香りが充満している。
立ったまま僕は木陰の奥でそれを眺めていた。
青い鎧の美しい男が、ハーディに負けず劣らず美しく冷たい目をした男が、ゆっくりとルディの死体に近づき、何かを確認している。
それから彼は、藪にうつ伏せで横たわるハーディの死体に近づいた。
彼の首筋を触り、衣類を確認し、ハーディの懐にあった手帳を回収した。
ハーディの手帳にも、彼が語った蝶、メタモルフォの紋章が刻まれている。
青い男は再度フードを手に取ってそれを着込んだ。
青い光が吸い込まれるように消えた後、フードの男の手には丸いメダルのようなものが握られている。
彼はそれにこう、話しかけた。

「ゴーストマンティスだ。蝶を二体撃破。引き続き哨戒を行う」

 彼が話しかけた手のひらサイズのメダルが、彼の言葉に反応するようにチカチカと光る。
刻まれているのは確かにマンティス。カマキリの紋章だった。
そしてその全ては、憎むべき敵の咽せるような血の匂いの中で行われた。
美しい青い男は、もう一度辺りを確認して、最後はカンテラを蹴り壊してその森を去った。

僕は動けなかった。男が去った直後、ルルワが搾り出すように泣き始めたけれど、その声すら聞こえなかった。僕は恍惚としていた。
正義は為されたのだ、むせかえる血と暴力の中で。
神の化身のような美しい男が見事神の敵を打ち滅ぼしたのだ。
その余りにもヒロイックな光景に僕は生まれて初めての陶酔をした。
腹の奥から激情じみた衝動が跳ね上がって僕の足を軽くした。
全身に伸びるのは暴力的な快感、そのリズムに突き動かされて跳ねるように僕はハーディの死体へと近づいた。
死んでいる。はぁ、と飲んだ息のまま頬の肉が引き攣った。

「ざまあみろ!」

 と僕は叫んだ。それから動かない肉の塊になったハーディの肩や腰や腹を足で蹴りながら彼を罵倒した。

「天罰だ、天罰だよ!この異教徒め、お前なんか地獄で永遠に苦しめ!」

 答えないハーディの死体を思う存分蹴って楽しんだ後、やっと冷めてきた激情が蠱惑の香りを伴って僕を呼ぶ。
荒く息を整えている僕の目の端に切り取られたハーディの腕が入ってきた。
死にたてで、傷口も赤い。
その赤い肉の断面図がとても瑞々しくて盛り上がっていて、僕の記憶の中でその赤みが馬の肉の味を思い起こさせた。
赤い肉。肉汁と塩味と油の香り。
幸福だった頃を思い起こさせる飽食の味。
異教徒の肉は、きっと動物の肉と同じ様なものだ。
迷いはなかった。
こいつらは動物だ。べらべらと喋り嘘を撒き、人を堕落させる悪魔の下僕だ。
だったらそれを糞にしてやろう。
ハーディの死体を探ってナイフを見つけた。
ルディの死体から取った拳銃を服の中に隠して、僕はハーディの腕の肉の皮を剥いだ。
血を抜いて、細かく刻んだ。
火を起こして、小さく切ったその肉を火の周りにかざした。
ルルワは泣いていたけれど、それに構わず僕は作業を続行した。
そして夜明け前の真っ暗な森の中で涙の枯れた僕達は二人きりでハーディを食べた。



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