【映画感想文】トップガン マーヴェリック
※この記事は2022年5月27日公開の映画『トップガン マーヴェリック』のネタバレを大いに含みます。それでも構わない場合はDanger Zoneの先へとお進みください。
さて、まず一言。
(ペニー・ベンジャミンって誰)
完璧な映画でした。
『トップガン』の続編としてこれ以上のモノはない、というのが端的な感想です。
1986年に『トップガン』が公開されてから22年後の2008年、続編が製作されるという噂が出回り、2017年には公式情報として続編のタイトルが『トップガン マーヴェリック』になると報じられ、そして公開が2022年。
本作はなんと36年後の続編です。
続編がなかなか制作されなかったのは、主演のトム・クルーズが『トップガン』の出来を気に入り、続編の制作権を自分で買い取ってしまったからだと言われていますが、これだけのブランクを空けて公開された続編というのも珍しいでしょう。
僕は正直なところ、『マーヴェリック』を甘く見ていました。一般論として、2作目が1作目より面白くなることはあまりないからです。
なので当初は観る気があまりなかったのですが、公開直後、SNSなどで好意的なレビューがやたらと目立ったので、それに後押しされるようにしてシアターに足を運びました。
観て、たまげましたね。
観たかったものが全部詰まってました。
映画の中身について
オープニングシーンは前作とほぼ同じで、黒地に白抜きでトップガンの設立経緯を示した後にタイトルロゴをバン!と出し、離陸準備をする戦闘機の映像とそのBGMに名曲「Top Gun Anthem」、そして「Danger Zone」。
https://www.youtube.com/watch?v=BGqD3A4UL_g
要はこれをブラッシュアップしたような感じです。
IMAXシアターで観たんですが、この時点でもう満足しちゃいましたね。自宅の小さなテレビ画面で見てもカッコいいと思えた昔の映画の映像が、現代の技術で再録され、素晴らしい音響と大画面で観られたんですから。
で、その後にマーヴェリック(トム・クルーズ)がすぐに出てきます。ところが、「ああ、トムも年取ったなあ」なんて感傷に浸ったのも束の間で、すぐさま極超音速テスト機「ダークスター」でマッハ10に挑戦!というシーンですよ。現実世界での有人飛行の最高速記録がマッハ6弱(7,274 km/h)という中で、マッハ10(12,250km/h)って。
急激に強まったSF色にちょっと戸惑いましたが、『マーヴェリック』の舞台は現代であり、『トップガン』から相当の年月が(作中でも)経過しているのだという分かりやすい表現でした。
結局、ダークスターは登場も退場も超高速というオチに終わりますが、それで良かったのだと思います。ただ在るだけで作品全体のSF感を高めまくるので、映画の小道具としては扱いにくいから。
さて、マーヴェリックは海軍大将まで昇進していたアイスマン(ヴァル・キルマー)の推薦を受け、アメリカ海軍戦闘機兵器学校(トップガン)に教官として舞い戻るわけですが、もうそこからはまんま『トップガン』でした。
酒場で絡んだ相手が教官だと分かりうなだれるパイロットたち、前作のヴァイパーよろしくアグレッサー(敵役)としてあざ笑うように飛行するマーヴェリック、ビーチバレーならぬビーチアメフトで仲を深めたり、パイロット同士でいがみ合ったり……。最後は困難なミッションを乗り越え、固い絆で結ばれる、と。
ここであえてシビアな言い方をしてみると、前作の焼き直しのような構成が目立ちました。
『トップガン』は間違いなく名作ですが、一方で非常にアメリカンな映画です。軍に入って任務(ミッション)を遂行するのが愛国者であるという価値観が底に流れており、かなりマッチョな作品です。
速い!強い!カッコいい!とワクワクさせられますが、一方で、ストーリー自体はさほど深みのあるものではありません。
『マーヴェリック』はその特徴もしっかりと継承していました。
例えば、マーヴェリックがトップガンに戻った理由は「ならず者国家のウラン濃縮プラントを攻撃する」というミッションのためですが、いかにも取って付けたような設定ですよね。
後述するペニーとの恋愛シーンもかなりベタでしたし、グースの息子ルースターとの確執が解けて和解するシーンなんかは、ほとんど予想通りでした。
ただ、そんなのどうだっていいんです。
ベタベタな展開だろうがなんだろうが、『トップガン』ファンはこれを観たかったはずなのです。
ルースターが実は敵国のスパイで、マーヴェリックと熾烈なドッグファイトになったりしたら確かに映画としては面白かったかもしれないですが、その時点で『トップガン』のスピリットは消し飛んでしまいます。
そういった意味で、『マーヴェリック』は「トップガンらしさ」というものを非常にうまく落とし込み、違和感なく表現した作品でした。
そういう意味で「完璧」なのです。
ペニー・ベンジャミンって誰
本作のヒロイン、ペニー・ベンジャミン。
前作を観てから『マーヴェリック』に臨んでいた自分は、ペニーの存在に散々惑わされました。
「誰?」と。
飛行機乗りのたまり場クラブ「ハード・テック」の女性オーナーとして鮮烈に登場した後、アメリアという娘がいて、元旦那はどこかの誰かと再婚をして……などと細切れに情報が明かされますが、具体的にどういう人物かという説明はありません。
作中でマーヴェリックと自然な形(焼けぼっくいに火が付いた感じ)で親密になっていくので、つい「前作のヒロイン……だよね?」などとぼんやり思いつつ、エンドロールを迎えてしまいました。
ちょっと考えてみれば、前作のヒロインはシャーロット(チャーリー)という名前なので、全くの別人です。予習したとはいえ、人の記憶なんて曖昧なものですね。
さて、そんなペニー・ベンジャミン。完全に新しいキャラクターという訳ではなく、名前だけは前作にも登場していたとのこと。
マーヴェリックが相棒のグースと共に上官に呼び出されるシーンで、マーヴェリックは「管制塔をかすめ飛ぶこと5回、さらに低空飛行で脅かした相手が司令官のお嬢さんときた」と叱られます。するとグースは「ペニー・ベンジャミンか?」とマーヴェリックの耳元でささやくのです。
また、グースの妻キャロルが「あなたペニー・ベンジャミンにすごかったんですって?」とマーヴェリックをからかうシーンがあり、彼はペニーに相当熱を上げていたようです。
このように名前は出ていましたが、あくまでも小ネタレベルであり、唐突な感じは否めません。
キャスティングの都合もあったのかもしれませんが、本作のジョセフ・コシンスキー監督はこのように意図を語っています。
言われてみれば、前作から引き続き登場しているのはマーヴェリックとアイスマンくらいのものですし、そのアイスマンも病気により途中退場します。
また、グースの妻、そしてルースターの母であるキャロル(メグ・ライアン)は物語に大きく絡んでもおかしくない立ち位置ですが、「マーヴェリックにルースターの入隊志願書を破棄するように頼んだ」というエピソードが語られるのみで、こちらも登場はしません。
このように、『マーヴェリック』は『トップガン』の同窓会をするのではなく、一つの映画として新しいストーリーを描くということを念頭に作られており、ある意味サッパリとしています。
チャーリーではなくペニーがヒロインとして取り上げられたのは、過去について触れるシーンの挿入を減らし、作品全体の爽快感を高めるために必要な選択だったのかもしれません。
グースの息子ルースター
この映画のメインテーマはやはり、かつてマーヴェリックの相棒だったグースの息子、ルースターとのヒューマンドラマでしょう。
ブラッドリー・ブラッドショウというちょっとクドい本名を持つルースターは優秀なパイロットとして独り立ちしながらも、父ニック(グース)が死んだ原因を当時相棒だったマーヴェリックに求めたがっているフシがあり、二人は微妙な関係のまま過酷なミッションに立ち向かうことになります。
僕は本作のあらすじを知った時に、ルースターは昔のマーヴェリックのように、超が付くほど生意気なパイロットかと思っていました。それをマーヴェリックが、昔の自分を見るような目で諭していくのかと。
ところが実際、ルースターは威勢の良いところはありつつも、いざという時に一歩が踏み出せなかったりして、なかなか隙の多いキャラクターでした。
そのあたりの作品としての力の抜き方も良かったと思います。ベタだけどありきたりではないというか。
ちなみに、英語でルースター(rooster)は「雄鶏」、グース(goose)は「ガチョウ」です。
前作でグースが自分のコールサインのスペルを「オーは二つだ(Two O's in Goose)」と言うシーンがありましたが、本作でルースターに同じことを言わせることもできたはずです。
「Two O's in Rooster」というふうに。僕が脚本家なら絶対にそのセリフを入れちゃいますが、これもまた、安易に取り入れたらノイズになったかも知れません。
エースコンバットと『峡谷すり抜けミッション』
『トップガン マーヴェリック』の最大のヤマ場は、やはり終盤のウラン濃縮プラントを爆撃するシーンです。
敵の対空ミサイルを避けるため、峡谷の間を高速で飛行し、急降下爆撃ののち、すさまじいGに耐えながら急上昇して離脱。その後に飛んでくるミサイルは気合いで避ける、と。
このエクストリーム・ミッションの内容を聞いて、そこそこ多くの人がこう思ったはずです。
エースコンバットじゃん、と。
ご存じない方のために説明すると、『エースコンバット』はバンダイナムコから発売されたフライトシューティングゲームで、シリーズ累計1,700万本を誇る人気作です。
コンセプトは「超本格的ヒコーキごっこ」で、リアリティを追求したフライトシミュレーターというよりは、爽快感を重視した作りです。ミサイルを何十発も撃てたり、燃料を気にする必要がなかったりして。敵機をバンバン墜として、エース気分を味わうのが醍醐味です。
ただ、このゲームの魅力はそれだけではなく、「ストレンジリアル」と呼ばれる作品世界の作り込みの奥深さ、そして「プレイする映画」とも言えるストーリー性が素晴らしかったりもします。
さて、そんな『エースコンバット』ですが、シリーズを通して共通する要素、いわゆる「お約束」があります。
それが「峡谷すり抜けミッション」なのです。
たとえば、シリーズ6作目『エースコンバットZERO』に『王の谷 "THE VALLEY OF KINGS"』というミッションがありますが、これは「敵の対空レーダーを避けるため、谷の間をすり抜けながらダムに偽装された核ミサイル発射基地を攻撃する」というものです。
『マーヴェリック』とほとんど同じですよね。
この過激なミッションは、どの作品でもだいたいゲーム中盤〜終盤に挑むことになるパターンが多く、なおかつ、敵の意表を突く攻撃となるので、シナリオの大きな転換点になったりします。
そして大抵難しいです。狭い谷の間を飛行する操作はシビアですし、高度制限を破って谷の上に出ると対空ミサイルが飛んできてゲームオーバー。
飛行機でやることなのか?と呆れざるを得ない、印象深い『エースコンバット』のお約束ミッションをまさか映画で観られるとは思わず、僕はシアターの客席で拳を握り締めたものでした。
ちなみに、「峡谷すり抜けミッション」のルーツを辿ってみると、新谷かおる氏の漫画『エリア88』に出てくる「オペレーション・タイトロープ」が嚆矢かなという気がします。
この作品の中に出てくる「オペレーション・タイトロープ」は、反政府軍保有の大型燃料集積所を攻撃して燃料を奪取するという作戦で、
部隊は各部隊4人編成。攻撃目標は反政府軍燃料集積所保有の飛行場及びレーダー施設。
敵の索敵レーダーは谷の中には無いため、谷の中を突破する。ただし昼間は地上監視員や航空機に発見される危険性があるため、作戦決行は作戦立案の翌日の夜。
谷の中には難所がA~Eの5箇所あるが、「地表下の約250m地点に幅25m、高さ15m」のピンポイントにギリギリ航空機が通過できるトンネルが形成されている為それを通過していく。
地表約250m地点のトンネル内部を0高度とした場合、上下5mが許容限界(オーバーした場合もちろん岩肌に激突して墜落)
というものでした。
何機も岩にぶつかって爆破炎上しますが、「ドジ」の一言で片付けられたりして、なんとも人命の軽い世界です。
ちなみに時系列的には、
1979年-1986年 『エリア88』連載
1986年12月6日 『トップガン』公開
1995年6月30日 『エースコンバット』一作目
という流れです。
「峡谷すり抜けミッション」はこれからも色々な作品に登場しながらブラッシュアップされ、連綿と続く伝統芸としてヒコーキエンターテインメント界に在り続けるでしょう。
結びに
『トップガン マーヴェリック』、素晴らしい映画でした。映画館でひさびさに夢中になって観た気がします。
ただ、冒頭で本作を「完璧」と評しましたが、それはあくまでも『トップガン』のスピリットを受け継ぎ、昇華した続編として「完璧」なのであり、『マーヴェリック』を単体で観たときにどんな感想になるかは分かりません。
先ほども書いた通り、「マッチョ」な映画ですからね。『トップガン』があんまり……という方は、自ずと本作の評価も下がるような気がします(そんな人が大勢いるとは思えませんが)。
本作は映像や音声に最新技術をバチバチに使いまくっているので、ただ何となく見ても楽しめるかと思います。
戦闘機の迫力ある映像はもとより、咽頭がんに苦しむアイスマンを演じたヴァル・キルマー氏は、実生活でも同じ病気を患っていて、作中で振り絞るようにマーヴェリックに掛けた言葉は合成音声だという事実を知った時は驚きました。
フィルマークス(映画レビューサイト)で驚異の「★★★★★4.5」を叩き出している『トップガン マーヴェリック』。
上げられまくったハードルを軽々と越えて行った名作として、語り継いでいきたい気分です。
余談ですが、アプリ(Canva)でちまちまとサムネイル画像作るの楽しかったですね。こういう画像作りたさでまた感想文書くかも。
それでは、また。
(おわり)
自己投資します……!なんて書くと嘘っぽいので、正直に言うと好きなだけアポロチョコを買います!!食べさせてください!!