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君は美しい(完結)

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とあるカリブの国を舞台にした、恋愛小説。 すべて無料です。
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2017年5月の記事一覧

君は美しい(第四夜)

君は美しい(第四夜)

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「ノリコのホテルに行ってもいい?」

そう聞かれて、迷わずコクリとうなずいた。

このまま離れるなんて、不可能に思えた。

彼が先に堤防を降り、下から手を差し出す。
しっかりと私の手をつかんで、胸の中に抱き込むように降ろしてくれる。

指を絡ませながらつないで、深夜の海沿いを歩いた。

今すぐホテルに着いてしまいたいような、まだ着かないでほしいような。
不安なのか期

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君は美しい(第三夜)

君は美しい(第三夜)

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「もっとノリコと一緒にいたい」

そう言われて、気の利いた言葉など何も返せなかった。ただ所在なく目をうろうろさせるだけ。

「行こう」

ネスティが再び私の手を引いて、夜の街をまっすぐ歩いていく。

昼の熱気が嘘のように、風が心地よい。

5分も歩くと海が見える海岸通りに出た。

ここは、街のデートスポットだ。海岸に沿って長い堤防が続き、その上にカップルたちが微妙な

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君は美しい(第二夜)

君は美しい(第二夜)

※第一夜はこちら

「ユア ビューリフォ」

そのぎこちない英語に、少し笑ってしまった。すると彼も、はにかむように口元だけで笑う。

私が喜んだと思ったのかもしれない。

(まあ、いいか)

少し気をよくしたのか、今度はスペイン語で質問してきた。

「キエレ バイラール?」

この言葉だけは、来てすぐに覚えた。道でも、クラブでも、みんなが聞いてくるから。

「踊らない?」

「ごめん、踊れないの」

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君は美しい(第一夜)

君は美しい(第一夜)

失恋した勢いで、航空券を買った。

カードでリボ払い。あとのことなんて知らない。突然10日も有給を申請した私に、上司は嫌な顔をしたが、どうでもよかった。

「俺への当てつけ?」

小さく吐き出した声は、鼻で無視した。うるさい。
お前は家で嫁の乳でも吸ってろ。

あんなくだらない男のいる職場には、1秒だっていたくなかった。

行き先は、とにかく暑くて遠くて陽気な国。
昔、オーストラリアにワーホリした

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