米ゲル ~河内町と超未来~
1、小麦アレルギーとグルテンフリー
私は、茨城県稲敷郡河内町の一角に立っていた。利根川沿いの小さな町。
いなしきぐんかわちまち、と読む。この河内という地名は、実に厄介だ。かわち、こうち、かわうち、せんだい、色んな読み方がある。一説には高知県高知市の「こうち」も、元は河内だったとのこと。大阪の河内は「河内弁(かわちべん)」で有名だ。宮城県の県庁所在地仙台市も、もとは「川内(せんだい)地区」にちなんだという説もある(諸説あり)。その日本にたくさんある河内の中で、茨城県のこの町の名前は、かわち。某有名ドラッグストアチェーンと同じ読み方、ということで私は覚えていた。
この河内町に「米ゲル」の会社がある。その名も、ライステクノロジーかわち株式会社である↓。
米ゲル…? 聞き覚えの無い読者各位も多いだろう。
一言で言えば、米に水を加えてゲル状にした食品素材である。そのままでは食べない。加工して使う。「高アミロース米から生まれた低コストな新食品素材」だそうだ。ゆるめのゼリー状から、弾力のあるゴム状まで、水分量によって調節が可能。この米ゲルを、ライステクノロジーかわち株式会社では、ブランド名で「ライスジュレ」と呼ぶ。「米ゲル」というパワーワードも捨てがたいが、ライスジュレというおフランスな語感も良い。しかしこの記事では、インパクト重視で「米ゲル」と呼ぶ。
この米ゲル、米と水である。したがって、ありとあらゆる食材と組み合わせることが(理論上は)可能である。ぱっと思いつくのは、例えばアイスクリーム、例えば大福の皮、例えばパンやケーキ、シュークリームの生地。
会社のホームページには、米ゲル(ライスジュレ)の特徴が3つ、まとめてあった。
◆硬さが自由自在:多様な加工食品への応用が可能
◆保水性が高く、もっちり感が持続
◆カロリー低減・グルテンフリー
なおグルテンフリーとは、こちらのサイトが詳しい↓。
元々は小麦アレルギーの人のための言葉。小麦などに含まれる「グルテン」を含まない食品のこと。ここから、グルテンを摂取しない食事方法という意味にも使われることになった。パンだけでなく、ケーキ、うどん、ラーメン、揚げ物の衣などにも含まれる。言い換えれば、小麦アレルギーの人は、こういうものを摂取しにくい。
米ゲルは、この問題を解決する。米ゲルは、グルテンフリーの食材である。したがって、小麦アレルギーの人でも、米ゲルを使ったケーキなら食べられるのである。
2、なぜ河内町で?
河内町は、米の町である。
もともと河内とは、川の中という意味がある。川の中、すなわち洪水や水害。大雨が降れば水の中。じめじめとした湿地帯。重ねられる治水事業。その悪条件を好条件に転化したのが、ずばり稲作だ。水が豊富ということは、水田には最も適しているといっていい。
茨城県は農業県だとよく言われる。北海道は別格としても、農産物の生産量では常に上位に入る。メロン、れんこん、ピーマン、ちんげんさい、栗、このあたりが有名か。東京の膨大な胃袋を、茨城県の農産物が支えている。
では、米の生産量はどうか。もちろん新潟県や東北各県などには負けるが、それでもベスト10にはランクインしてくる実力を持つ。その茨城県の中でも河内町は、コメどころとして有名なのである。
江戸時代には、利根川の流域にいくつもの河岸(かし)ができ、この河内町付近で採れた米を、江戸にせっせと運んでいたという。人呼んで「江戸の台所」。最近では河内町で採れた良質のお米を、「河内米(かわちまい)」としてブランド化する動きもある。
このような河内町が、米ゲル生産にも注目している。
米をいわゆる「ごはん」として食するのは、日本の食生活の基本であるが、それだけでは米のポテンシャルははかれない。かの有名な井上ひさしさんも、『コメの話』という本でその実力を讃えていた↓。
米の力をさらに増し、大活躍させていく可能性を秘めた「ライステクノロジー」。米の常識を越えていく。その1つが、米ゲルなのである。
3、超未来すし屋
2020年、東京で、ある寿司屋がオープンする。想像の斜め上をはるかに超えていく「超未来すし屋」だという。
どんなお店か? …これは正直、私の理解力のはるか上空にある。こちらのサイトを見て頂くほうがいいだろう↓。
このサイトの文章から、以下に一部を引用する(太字は筆者)。
◆「食をデジタル化し、食に革命を起こす」ことをテーマに活動する「OPEN MEALS」は、2020年に東京で、3Dプリントなど最先端技術を用いて作った寿司を提供する「Sushi Singularity」を開店する予定。
◆客が自分の健康情報を事前に提供し、その情報を元にパーソナライズ化した寿司を食べられる。
◆特製3Dプリンターや人工光ファームなどの最新テクノロジーを用いたフード・ファブリケーション・マシーンにより、パーソナライズ化された寿司データを出力。
◆自分の体の性質や不足栄養素などを元に自分ぴったりの寿司が食べられるということは、これまでの食に対する常識を覆す新しいコンセプトです。また、3Dプリントやデジタル化などの最先端テクノロジーだからこそ、ひとつひとつ栄養素などを調整して食べ物を作ることができます。
◆こういった新しい技術を用いた食べ物は、単なる新しいものへの興味だけでなく、病気の人々などの食事への応用の可能性にも期待できます。
…ここまで来たか寿司、ここまで来たかシンギュラリティ!
この店では、米ゲルが大活躍するに違いない。特製3Dプリンターで作られる食品には、ライステクノロジーがよく似合う。
「江戸の台所」は「令和の台所」へと、いま羽化しようとしている。
4、新米と滑空
いかがでしたでしょうか。この記事では、河内町の「米ゲル」を取り上げました。小さな町の大きな可能性です。
河内町の擬人化をご紹介します。今回は女性から。やはり河内町と言えばお米ということで、調理部の「新米のカワチ」というキャラにしました↓。
これに対し、男性の擬人化は、お米以外の河内町のトピックを探しました。利根川の河川敷に「大利根飛行場」という施設があります。ここでは、グライダーなどに乗れるとのこと。そこから発想したのが、この「滑空のカワチ」です。グライダー部に所属しています↓。
この市町村擬人化のキャラは、すべて20歳以上、「町学校」(ちょうがっこう)という学校に通う「町学生」(ちょうがくせい)という設定です。茨城県の各市町村出身者で構成された「プロイバゼミ」「プロラキゼミ」という2つのゼミにそれぞれ所属しています。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。