マガジンのカバー画像

蓮葉

7
白華の檻 妄想文をまとめたもの。 想像という水面を漂い浮かぶ言葉達を、蓮の葉に見立てて
運営しているクリエイター

2014年6月の記事一覧

今日も今日とて陽が昇る。
柔らかい朝の陽射しが部屋に射し込み、目蓋越しでも明るくなったのが判り、まどろみから覚醒へと私を誘う。
ふっと目を開けば、そこから今日という一日が始ま――

「……目が醒めたか、詞紀。」

空疎様がいた。

「もう明るい刻限だ、起きなくては皆に示しがつかぬ。―が、我は今こうして貴様の顔を見ていたい。」

もうほんの少しだけ…、な。
と空疎様は甘く囁く。

…これは夢だろうか

もっとみる

黄金色の夕日

「こっち!」

そう言って幼い玉依姫―道満の不完全な術によって玉依姫を継承する前の姿に戻されてしまった詞紀は、綾読(あやよみ)と智則の方へ駆け寄った。

「私たち、ですか…?」

顔を見合わせる綾読と智則。
神産巣日神が彼女を元に戻す儀式の準備をする間、彼女を守る五人の守護者たちは、彼女と遊ぶ組と不逞の輩を足留めし彼女を守る組とに分かれることになった。
幻灯火と秋房の二人か。古嗣、胡土前、空疎尊の

もっとみる

愛しいあなたへ

憎しみが、悲しみが、痛みが溢れても尚、美しく輝くこの世界へ―
私の大切な娘へ―

あなたにとってこの世界は、どう映るのでしょう。
今は眩く、幸福の内にあるこの日々も…明日にはその姿を変えてしまうかも知れない。
怒りや後悔に彩られる日々に、厳しい運命に囲われる日々になってしまうかも知れない。

けれどどうか負けないで。

確かに世の中は不条理なことが溢れている。
苦しくて、つらくて、どうしようもなく

もっとみる

心、固めて

【巫の渡】を数刻後に控えた早朝、私は目を醒ました。
幾分早く起きすぎたとも思うが、今の私にはこの夜明けの景色すら大切に思える。もう、見ることはできない最後の夜明け。
周りも、…私の身体も、静かだ。どうやらオニへの変化は収まってくれているらしい。

『生きたいとは、思わないのか。』

昨夜、空疎様が放った一言が蘇る。それは私がとうの昔に諦めた願いだった。
罪人である私が抱いてはいけない願い。
今まで

もっとみる

熱響涼記

「あっちー……暑いなー智則ー、暑いぞー」
「あんまり暑い暑い言うな秋房、より暑く感じる。」
「暑いんだから仕方ないだろ!」
「うるさい黙れ気が散るこんなのが季封の武官取り纏め役かと思うと嘆かわしい。」
「お前一息にとんでもないこと言うな…」
「そんなことより秋房、兵達の稽古はいいのか?」
「ああ、今日は大多数が作物の収穫に出てるからな、早めに切り上げたんだ。ってお前そんなことはないだろそんなことは

もっとみる

罪抗う導きの夢

「いやです、母様をころすなんてできません…」
「詞紀、いい子だから聞き分けて…」
「いやです!母様をころすのがいいこなら、詞紀はいいこになんてなりません!」

いつも見る、あの幼い冬の日の夢。
結末はいつも一緒だ。

風景が、神謁殿から山奥の祠に変わる。代々玉依姫の継承が行われる、呪われし祠。
薄暗い中、母様が優しく悲しく微笑み、私に【剣】の柄を持たせ…

「いやあああああああああああああああああ

もっとみる

夏の涼香

空疎尊(くうそのみこと)は困っていた。
連日降り続く雨で羽根が濡れることに、ではない。カミである自分にとって、姿かたちなど特に意味を成さないし、そもそも風を使えば湿気など簡単に吹き飛ばせる。
周りに堆(うずたか)く積まれた本の多さに、でもない。自分で積んだのだから困る事などない。
では何に困っているのか。

「空疎様、こちらにいらっしゃいましたか。」
「詞紀。」

声がした方に首だけ動かしてみれば

もっとみる