「自由研究には向かない殺人」とてつもなく素晴らしい読書初め。
私の読書初めはどんな本にしようかと半日ほど考えた。
ちなみに読書納めは韓国の作家たちによるアンソロジー「ヒョンナムオッパへ」だった。
まあ、表題作のヒョンナムオッパへを読んで衝撃を受け、ほかの短編はまだ読めていないので、正式な読書納め本といえるかは微妙なところ。
この本ついてもいずれまた書いてみたいと思う。
本題に戻る。
読書初めなのだから、お正月らしくゆったりのんびり読めるようなお料理小説(美味しそうな食べ物が出てくる作品を勝手にそう呼んでいる)もいいし、ちょっと切なそうなディストピア恋愛ものもいい。
そんなことを考えつつも、結局色んな本の中から選んだのは、このミス!2022年版海外編で第2位にランクインした「自由研究には向かない殺人」
そもそも昨年末から積読していたのと、やっぱり設定に惹かれてしまい、明るい読書初めとはいえないかもと思いつつも読み始めた。
裏表紙に書いてあるレベルのあらすじを軽く紹介しておくと
「17歳のピップは大学受験の勉強と並行して、自由研究で得られる資格(EPQ)に取り組む。題材はピップの地元の町で失踪し未だ発見されていない少女の事件。少女と交際していた少年が遺体で発見され、警察は彼が少女を殺害して自殺したと発表。自殺してしまった少年を知っていたピップは彼の無実を証明するために自由研究を隠れ蓑に真相を探っていく」というストーリー。
ここからは私の感想。
展開や登場人物たちみんなのバックボーン、描写、それらが本当に素晴らしい。
私はきっと今後この物語のことを思い出す時、文章ではなく頭の中で映像としてひとつひとつのシーンを思い出すことになると思う。
それぐらい文章を飛び出してくるような躍動感があった。
ここ最近で読んだミステリーの中で一番没入させてくれた。
読み始めはこれこそ海外作品!という感じで、カタカナの名前が沢山出てきてこの人誰だっけ?となったりしたものの、慣れてしまえばページを捲る手が止められない。
というかどこで一区切りつければいいのか難しいといった方がいいのか。
作者としては飽きさせないため、読者としても全然飽きない、という超win-winなあの手法はすごい。
将来設計がしっかりとあったり、社会的な事への関心もあり、行動力もある、そんな力強い17歳の女の子が主人公だというのも、日本では中々無いもので、読んでいて嬉しくもあり、元気と活力をもらった。
要所要所で主人公の書いた相関図などが出てくるのも、状況を理解しやすく、主人公の背後霊(本当なら守護天使とかがいいけど)になってピップの後ろから覗き込み一緒に推理をしているような気分になれて本当に楽しい。
読みながら、ピップそれは危険だよ!やめて、まさかそんなことしないよね?なんて思う場面もあったけれど、大前提として彼女は探偵でも警察でもなく、ただとても勇敢なティーンエイジャーであることを思い出し、だから私はこの物語がとても好きなのだと気付いた。
ミステリ小説は決して詳しくはないけれど好きな方で、そこそこに読んできたと思う。
ただこれまで日本の所謂本格ミステリや、新本格ミステリなどを読むたびになんだかしっくりこないような感覚が読後に尾を引いてしまっていた。
もちろん物凄く楽しく読み切るのだけれど、私には“向かない”だけ。
この作品を読んで、これまでのなんだかしっくりこないあの感覚の理由がわかった気がする。
名探偵がトリックを解きあかし、犯人を追い詰めるというものではなく、何に気がついてどう解き明かすに至ったのか、つまり私は名探偵の思考回路、脳内を求めていたんだと思う。
「自由研究には向かない殺人」は、私の求めていたものが全て詰まっていた。
本当に出会えてよかったと思う。
今年中には続編の日本語翻訳版が出ることも決まっているようで、楽しみに待ちたい。
これから読む方へ、あえてひとつ注意点を挙げるとすれば、SNSなどを駆使して情報収集していくので、SNSなどにあまり馴染みがないと理解するのが少し大変かもしれない。本当にそれぐらい。
この没入感と躍動感を色んな方に味わっていただきたいな、なんて思う。
ご興味ある方は是非。
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